第100章 君に詠む
京の町は予想以上に賑わっていて、行き交う人々の活気の漲る表情に目を奪われる。
信長様と手を繋ぎ、大通りを歩いていると、彼方此方で物を売り買いする元気のいい声が聞こえてきて、忙しなくも活気溢れる京の町の様子を体感できた。
「わぁ…随分と賑わってますね!前に来た時よりもお店の数も増えているみたい。本能寺があんなことになってしまって…信長様がすぐに再建なされたとはいえ、京の町の人々にも少なからず影響があったのではと心配していたのです。
でも、変わらず賑やかな町の様子が見られて安心しました」
「京は古来より何度も戦火に焼かれている。京の町人はその都度、家を焼かれ、財を失い、着の身着のままで住み慣れた地を追われてきた。
だが、彼らは全てを失っても、またこの地に戻ってきて、変わらぬ生活を営もうとしてきたのだ。
京の町人は帝が座すこの地に類稀なる愛着を持っている。
ゆえに、幾度苦境に立たされても、彼らがこの地を離れることはないのだろう」
行き交う京の人々に向けられる信長様の目は、慈愛に満ちていて優しい。
信長様が美濃の地から初めて上洛を果たされた時、京の町は人の往来も減ってしまっていて、今と違って随分と寂れていたそうだ。
度重なる戦乱に巻き込まれて荒廃した京の町
帝や将軍が座す由緒ある京の町は、下剋上が横行し、秩序なく荒れ果てた有り様だった。
人々の生活を守るはずの幕府や朝廷は力を失い、権威を欲して下剋上を目論む輩に、京の町人は無慈悲にも蹂躙されるがままだった。
信長様は足利将軍を奉じて上洛すると、京の町の整備にも積極的に取り組まれたという。内裏の修復だけでなく、町の美化や狼藉者の取り締まり、商いの自由化など、信長様が為された数多くの政策によって、京の町は往時の賑わいを取り戻してきたのだ。
「京の町が二度と戦火に焼かれることがないよう…皆が安心して暮らせる世が永く続くように…俺は、俺の為すべきことを為すのみだ」
「信長様……」
私と並んで歩きながら賑わう町の様子を見ておられた信長様は、真っ直ぐ前を向いて自らに言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
戦のない世を実現し、民達の平和な暮らしを守りたいという信長様の切なる思いを、私もまた、これからも信長様の隣で共に感じていきたいと……そう願わずにはいられなかった。