第100章 君に詠む
「んっ…信長様…ダメです…皆が見て…あ、んっ…」
視界の端に、信長様の背後に控えたまま頬を赤らめて俯く小姓達の姿が目に入り、急に恥ずかしくなる。
信長様の所構わずな触れ合いは最早お約束のようなものだが、年若い少年のような小姓達に見られるのは、やはり恥ずかしい。
居た堪れなくて顔を背けようとすると、骨張った指先でクイッと顎を取られて…あっと思う間もなく唇を塞がれていた。
「んんっ…あ、うっ…ンンっ…はっ…」
チュウっと勢いよく吸い上げるような突然の口付けに、クラリと目眩を覚える。
(やっ…人前でこんな口付け…お寺の方にも見られるかもしれないのに…)
信長様の大胆な振る舞いに戸惑いながらも、甘美な誘惑から逃れることも出来なかった私は、申し訳程度に身を捩ってみせるしかなかった。
やがて、チュッと可愛らしい音を立てて唇が離される。
「っ…はぁはぁ…んっ…信長さ、ま…?」
荒く乱れた息を必死に整えながら信長様の表情を窺おうとすると、ニヤニヤと悪戯が成功した子供のように笑っておられた。
「着替えたら、すぐ出かけるぞ」
「え、ええっ……」
それだけ言うと、小姓達を引き連れてさっさと歩き始める。
小姓達が、チラチラと信長様と私を見比べながら慌てて信長様の後に続いていた。
(ん、もぅ…勝手なんだから。恥ずかしいのに…)
口付けの余韻が残る唇に、そおっと触れる。
そこは、信長様の熱がいまだ残っているかのように熱く、しっとりとしていて、触れただけで身体の奥にまで熱が点ってしまうかのようだった。
不意打ちのような口付けは、私の中の熱を呼び起こし、なかなか消えてくれそうもなかった。
甘美な熱に酔わされてうっとりとなりながらも、私もまた出かける支度をするために部屋へと向かう。
愛しい人と一緒に京の町を歩ける期待に胸を膨らませながら……