第99章 新たな出逢い
翌朝
「御館様、おはようございます。本日のご予定ですが……」
いつものように迎えに来た秀吉さんから朝の報告を聞く信長様は、涼しい顔で脇息に凭れている。
疲れなど一切なさそうな清々しいその顔を、私はチラリと横目で窺って小さく溜め息を零した。
(はぁ…やっぱり信長様の体力は底なしなんだわ。私なんてもぅ…身体中怠くて堪らないのに……)
明け方近くまで何度も愛された身体は、いまだ情事の余韻が残ったまま気怠くて、隣で座っていても、ついぼんやりしてしまう。
「………ゅり…朱里?…お〜い、朱里?聞いてるか?」
「……えっ……あ……ご、ごめんっ、秀吉さん。ええっと…何かな?」
呼ばれていることにハッと気付いて顔を上げると、心配そうに私の顔色を窺う秀吉さんと正面から目が合った。
(っ…しまった。私ったらぼんやりして…聞いてなかった)
「朱里、奥でもう少し休んでおれ。疲れているのだろう?」
「だ、大丈夫です。すみません、ぼんやりして…」
「構わん。昨夜は無理をさせたからな。身体が辛いのだろう?」
「ちょっ…秀吉さんの前ですよっ!そんなこと……」
ニヤニヤと悪戯っぽく笑う信長様の袖を慌てて引きながら、秀吉さんの方を見ると、秀吉さんは顔を赤らめて私の方をチラチラと見ていた。
「ひ、秀吉さんっ…違うの…」
「っ…いや、大丈夫だ。気にするな…ぅ、でも…それは隠しといた方がいいと思うぞ、俺は」
「へ?それって……っあっ!うわぁ……」
秀吉さんは自分の首筋をトントンと指先で指し示し、恥ずかしそうに私を見る。
(あぁ…しまった…隠すの忘れてた…っていうか、これ…隠せないよね??うぅ…)
首筋の目立つところにつけられた信長様の吸い痕は、どう考えても着物で隠せない位置にあって…秀吉さんが言うぐらいだから、はっきりと目立っているのだろう。
恨めしげに信長様を見るけれど、あっさりと流されてしまう。
(もぅ!仕方ないな…今日は一日、部屋に篭っていよう。信玄様と幸村にちゃんと謝りに行こう、って思ってたのに……)
昨日は信長様に強引にお城に連れ戻されてしまって、挨拶も出来ず終いだった。
謙信様と佐助くんにも、お別れを言えなかった。
(もう二度と会えないかもしれないのに…最後に少し、話したかったな…)