第99章 新たな出逢い
「それで、信玄は明日、甲斐へ戻ると?」
「はい。その予定だと伺っております」
「全く…勝手な奴だ。好き放題、引っ掻き回しおって…まぁ、あれでも一応は同盟相手だからな、無下にはできん。今宵は宴でも開いてやれ」
「はっ、承知致しました」
信長様たちの話を、私は隣でぼんやりと聞いていた。
(信玄様たち、明日にはお帰りになるんだ。今宵は宴か…でも、私はきっと出られないよね。信玄様たちとの同席を信長様がお許しになるはずないもの……)
今朝起きてから、信長様は昨日のことについては結局何も仰らなかった。
いつものように目覚めて、私を腕の中に抱き締めて口付けをして…何ら変わらない、いつもの朝だった。
昨夜は感じた苛立ちのようなものも、今朝の信長様からは感じられなかったが、私から聞くことは躊躇われた。
(朝はとてもお優しかったけど……まだ怒っておられるのかな、信長様)
秀吉さんと話している信長様の表情を窺おうと、チラリと視線をやると……
「何だ?」
「っ…あっ…」
ばっちり目が合ってしまい、焦って何と言っていいのか分からなくなる。
「……言いたいことがあるなら、言え」
「えっ…ええっと…あ、その…今宵の宴、私は出ちゃダメです…よね?」
「………」
(うっ…視線が痛い。やっぱりダメか…)
冷ややかな視線を受けてガックリと項垂れる私を見ても、信長様は何も言ってくれない。
やっぱりまだ怒っておられるのかもしれない。
「ご、ごめんなさい…あ、あの…信長様…」
「…………宴の間、俺の傍から離れぬのなら…出てもよい」
「……えっ?」
ぶすっと不機嫌そうに呟いた信長様は、私の視線を避けるように横を向いている。
「え…ええっ…いいの?いいんですか、信長様?本当に?」
「……そんなに嬉しそうな顔をするな」
「す、すみません…」
信長は嫌そうな顔をしながらも、嬉しそうに顔を綻ばせる朱里を見て仕方なさそうに口元を緩める。
「秀吉、酒はたっぷりと用意しておけ。あの特別の酒も手配しろ。『軍神』がご所望だそうだからな」
「はっ、畏まりました!……は?軍神?えっ?」
秀吉が困惑しているのをさらりと無視した信長は、チラっと天井を見上げる。