第99章 新たな出逢い
私を抱えて城へ戻った信長様は、終始無言のまま、足早に天主へと上がる。
天主に着くと、乱暴に襖を開けて中へ入り、そこでようやく私を下ろしてくれた。
「っ…あの、信長様っ…」
「……………」
板張りの床にペタリと座り込んだ私を、信長様は無言で見下ろす。
その深紅の瞳は冷んやりと冷たい色をしていたが、瞳の奥が少し戸惑ったように揺れていた。
「信長様……?」
何も言わない信長の様子が気になって、朱里は行き場を失った子犬のように頼りなげな目で信長を見上げる。
「っ…くっ…そんな目で俺を見るな」
「信長様…ごめんなさい、私っ…」
「言い訳は聞かん。謙信らとの間にどのような事情があったにせよ、俺に隠し事をしたことに変わりはない。貴様にやましいところがあったとは思えんが、あれほど隠し事はするなと言っておいただろうがっ!」
「ご、ごめんなさい…ごめんなさい、信長様、私っ…」
いつもと違い怒りを露わに声を荒げる信長様に、私は動揺してしまい、上手く言葉を繋げない。
これまでに信長様からこんな風に強く叱責されたことはなく、それだけでもひどく心が乱れ、罪悪感と後悔が入り乱れて…どう答えてよいのか分からなくなってしまったのだ。
「っ…朱里…貴様は俺のものだという自覚が足らん。俺に黙って男どもと出かけるなど、女子の身で万一何かあったらどうする?貴様は危機意識が低過ぎるのだ」
「なっ…ひどい。それは言い過ぎです。信玄様も謙信様も信長様と同盟を結ばれている御方ではないですかっ。知り合って間もないけれど、私にとっても大切な友人になった方々です。何かあったら、などと思うのは失礼ですよ!」
「はっ…男と友人だなどと、甘っちょろいにもほどがあるわ。男は誰しも、邪な欲の塊よ。貴様のように人を疑うことを知らぬ女は、男の良いようにされかねんのだ。分かっているのか?」
「そんなっ…そんなの、ひどい偏見にしか聞こえません!私は信長様のものだけど…友人を作ることも許されないのですか?」
「そんなことは言っておらん。だが、彼奴らが貴様の友人だなどと…俺は認めん。大体、貴様は男に対して無防備過ぎるのだ」
「ひどいっ…私にだって、人を見る目ぐらいあります。誰彼構わずついて行くような真似は致しません。信長様は、私をそんな女だとお思いなのですか?」
「くっ…朱里っ……」