第99章 新たな出逢い
「あ、朱里さん、髪が…」
「え?」
「朱里、何をやってる?髪が乱れてしまったではないか。じっとしていろ。今、直してやる」
謙信様の手が私の髪に触れ、優しい手付きでそっと撫でた、その時だった。
「朱里っ!」
「っ…えっ、あっ…の、信長様っ??」
名を呼ばれて慌てて顔を上げると、入り口に仁王立ちする信長の姿が見えて、思わずビクっと身が震えた。
信長はチラリと周囲に視線を巡らせると、朱里の髪に触れる謙信を見て、不信げに眉を顰める。
「……これは、何の茶番だ?謙信、何故、貴様がこの場におる?」
「お前に言われる筋合いはない」
「……信玄、貴様、どういうつもりだ?俺を謀って朱里を連れ出し…こんなところで何をしている?」
「何って……皆で仲良くお茶、かな。まぁ、お前も座れよ。饅頭、食うか?これ、美味いぞ」
「要らん」
信玄様が差し出した皿には目もくれず、信長様は謙信様と佐助くんを氷のように冷たい目で睨み付ける。
「信長様っ…あの、これはその…」
「朱里、貴様は黙っておれ。弁解は後で聞く。謙信、表へ出ろ。貴様とはいずれ決着をつけねばと、常々思っていたところではあった。丁度良い機会だ」
「ほぅ…それはこちらも願ったりだが…後悔するなよ?朱里の前で恥をかいても知らんぞ」
「くっ…気安く名を呼ぶなっ!」
ギリッと音がするほどに歯を軋ませて獰猛に咆えた信長は、今にも掴みかからんばかりに謙信に詰め寄った。
「信長様っ、待って…待って下さいっ!違うんです…」
信長様を引き止めようと必死で弁明しようとする私に、謙信様は穏やかに微笑みながら言う。
「朱里、案ずるな。すぐに終わる。お前は、信玄たちと茶でも飲んでゆるりと待っておればよい」
「謙信様っ、待って下さい!話せば分かりますから…」
「いや、話し合いなどつまらん。武士とは、刀を交えてこそ分かり合えるものだ」
(いやいや…分かり合う気、あります?)
「信玄様っ、止めて下さい!このままでは……」
私の制止を無視して店を出て行こうとする二人を目で追いながら、黙って座ったままだった信玄様に取り縋る。
もはや、頼れるのは信玄様しかいなかった。
「全く…無粋な奴らだな。天女を置いて斬り合いとは…」
やれやれ、と呆れたように言いながらも、信玄様は立ち上がり、二人の間に立ち塞がってくれた。