第99章 新たな出逢い
「朱里さん?どうかした?」
急に黙ってしまった朱里を、佐助は心配そうに見つめる。
顔を綻ばせて嬉々として食べていた甘味にも、いつの間にか手を伸ばさないで、何事か物想いに耽っているようだった。
「っ…あ…ごめん、佐助くん…ふふっ…沢山食べてお腹いっぱいになっちゃった」
信玄様が注文してくれた甘味は、まだまだ皿の上に残っていた。
「ほら、見ろ。信玄様、頼みすぎですよ。女だからって、甘いもんばっかりそんなに食えないっーの!朱里、無理すんなよ。腹壊したら元も子もねぇからな」
「ふふ…大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、幸村。本音を言えば、ここの甘味はとっても美味しいから全部食べてしまいたいぐらいだよ!幸村は、もう食べないの?」
「おぅ、もう充分…って、信玄様っ、まだ食う気ですか!?」
「んー、美味いぞ、この饅頭。信長にも土産に持って帰ってやろう」
「はぁ!?魔王がそんな甘ったるいもん食うわけないだろ…」
「はは……」
(信長様…まだご政務中なのかな。お疲れではないかしら…帰ったらお茶をお淹れして、甘いものも召し上がっていただいて…あぁ、どうしよう、信長様のお傍に行きたくなっちゃった…)
先程まで皆で楽しいお茶の時間を過ごし、時間を忘れるほどだったというのに、信長の名を聞いた途端に、どうしようもなく逢いたくなってしまう。
少し離れていただけだというのに、もう逢いたくて堪らない。
美味しいお菓子とお茶も、信長様と一緒に味わえたらどれほど楽しいだろうかと考えてしまうのだ。
「あの…信玄様、そろそろ戻りませんか?」
「ん?あぁ…そうだな。あまり遅くなると信長のやつ、君を迎えに来るかもしれないしな」
「ええっ…それは、ちょっと困るかも…」
信玄様はいいとしても、謙信様と信長様が鉢合わせたら、大変なことになる予感しかしない。
同盟を結んでいるとはいえ、二人がどういう関係性なのか、正直なところ私には分からない。
謙信様の方は、同盟があろうがなかろうが、本気で信長様と一戦交えることを望んでいるようなところが見受けられるし。
もし二人が会ってしまったら、きっとややこしいことになる。
(ダメダメっ!そんな修羅場は想像したくないよっ!)
嫌な予感を振り払おうと、私は無意識にぶんぶんと頭を振ってしまった。