第99章 新たな出逢い
佐助くんの声かけで茶屋へ入った私達は、席に着いて改めて向かい合う。
「改めまして、朱里さん。再び会えて嬉しい」
「朱里、この間の礼だ。好きな甘味を何でも好きなだけ頼むがよい。遠慮はいらん」
「だ、そうだぞ、朱里。どれにする?みたらし団子は外せないよな…今の時期だと、うぐいす餅に椿餅か…」
「ええっ…いや、あの、私は…」
品書きを広げた信玄様は、楽しそうにキラキラと目を輝かせて見ている。
「ちょっと信玄様、何であんたが選んでるんですか?朱里、お前が食べたいもん選べよ」
「えー、固いこと言うなよ、幸村。朱里も色々食べたいだろ?謙信の奢りなんだから、遠慮しないでいっぱい頼めばいいんだぞ」
品書きを見せてくれながら、ニコニコと楽しげに笑う信玄様の何気ないひと言に、一瞬、場がシンっと静まり返る。
「……ん?どうした?」
「あんたなぁ…何をサラッと…『俺の口からは言えない』とか言っときながら、うっかり名前呼んでんじゃねぇ!」
「まぁ、もう今更って気もしないでもないんですが…ここは一応、ご本人に名乗っていただきましょうか」
「ふんっ、佐助、お前が勿体ぶって隠したりするからだ。俺はコソコソ隠すのは好かぬというのに」
「あ、あの…ちょっと待って…ええっ…け、謙信って言いました、今?謙信…様?って……ええっ…」
不機嫌そうにプイっと横を向いてしまった二色の瞳の男性の顔をまじまじと食い入るように見つめる。
「っ…もしかして貴方は…」
「越後国、春日山城主、上杉謙信だ」
「っ…………」
信長様とも信玄様とも面識があり、信長様が特別なお酒を贈ったかもしれない武将、もしかして…と頭の片隅で思わないこともなかったけれど、まさか本当に『軍神』上杉謙信、その人だったとは……
(甲斐の虎と越後の龍と一緒にお茶……これって、とんでもない状況じゃない?織田と上杉は一応は同盟関係だけど、上杉謙信は無類の戦好きだって聞いたことがある。同盟を結ぶ前は、信長様とも何度も刀を交えたことがあるって……)
「黙っててごめん。上杉と織田は同盟を結んでる仲だから、君が信長公の正室だって分かった時点で堂々と会いに行けばよかったんだけど…謙信様の我が儘で…」
「佐助…余計なことを言うな。その口、塞いでやろうか…」