第99章 新たな出逢い
「お前は政務があるだろ。俺が持ってきた報告書、今日中に目を通してくれよ。それに、朱里だってたまには息抜きが必要だ。夫が四六時中、隣に張り付いてたら、妻は気が抜けないだろう?
そういう女性の繊細な気持ちを察してやれないとは、お前もまだまだだな。男の束縛は、度が過ぎればみっともないだけだぞ」
「くっ…言わせておけばペラペラと軽口を叩きおって…」
苦々しげに吐き出された言葉の端々に信長様の苛立ちが垣間見えて、信長様が怒りで席を立ってしまわれないかと、私はもう気が気ではなかった。
「信長様、私なら大丈夫です。案内役、しっかり務めますから…心配なさらないで」
「くっ…朱里っ…」
先の忍びの件もあり、朱里を一人で城下へ行かせるだけでも心配だというのに……女好きの信玄が一緒では、別の意味でも不安しかない。
だが、朱里は信長の正室として客人をもてなさねばという使命にでも駆られているのか、まるで邪心のない清らかな目で訴えてくるのだ。
疑うことを知らぬ純粋なその姿を見れば、信長もそれ以上強くは言えない。
結局、仕方なしに信玄たちとの外出を許したが、信長の胸の内はモヤモヤと燻るどす黒い感情でいっぱいだった。
==================
機嫌の悪い信長の様子に後ろ髪を引かれる思いになりながらも、朱里は信玄と幸村と三人で城下へ向かうことになった。
「信玄様、何かご覧になりたいものなどございましたら、遠慮なく仰って下さいね!城下へは、この間、信長様と来たばかりですから私、ちょっと詳しいですよ。どこへでもご案内致します!」
「これは頼もしいな。では早速、君の行きつけの茶屋へ行こうか」
「えっ…茶屋へ…ですか??」
城下の視察と聞いていたのに、何一つ見ないうちからいきなり茶屋へ…とは、どういうことだろう。
信玄様は甘味がお好きらしいが…いいのだろうか?と、チラリと幸村の方を見てみるが、幸村は黙ったままだ。
「そうだよ。もうすぐ待ち合わせの時間…だろ?」
「えっ……」
待ち合わせ、と聞いて、ハッとなる。
だけど、どうして信玄様が………
「信玄様…どうして…?」
「ふふ…さる男に頼まれてね。守りの固い魔王の城から、天女を拐ってくれないか、ってね。俺も君にはもう一度逢いたかったから、喜んで引き受けたわけさ」
「そんな…」