第99章 新たな出逢い
信玄様の発言により気まずくなった雰囲気のまま昼餉が始まってしまい、私は結局、信玄様の隣で食事をすることになっていた。
(あぁ…信長様の視線が痛い…。信玄様が私にも親しく接して下さるのはありがたいけど…うぅ、気まずい)
「……朱里」
「えっ…あ、はい、信玄様…何か?」
「ふふ…信長のことが気になるかい?」
「そんな…すみません…あ、あのっ、信玄様のお土産の、このお餅、とっても美味しいです!きな粉と黒蜜がたっぷりで、いくつでも食べられそうですね!」
「だろう?君が好きそうな味だと思ってね、幸村の目を盗んで買ってきた」
パチンっと悪戯っぽく目を瞑ってみせる信玄様は艶っぽくて、見ているだけでドキドキしてしまう。
「ふふ‥真田様も信玄様の甘味の制限をなさるのですね」
「も?織田軍にもいるのかよ、甘味の食い過ぎ、止められてる、しょうがねぇ奴…誰だよ、教えろ」
「えっ…あっ…それはちょっと…内緒です」
「何だよっ!内緒とか…訳分かんねぇ。あ、あと、俺のことは幸村って呼べよ。真田様とか…気持ち悪いから…」
「ええっ…いいんですか??」
「いいんじゃないか?俺も幸村も堅苦しいのは苦手でね。君さえよければ、だけど」
「はいっ!私も、お二人とは形式的な付き合いで終わりたくないので…よろしくね!幸村」
「お、おう……」
(何だよ…全然、悪女じゃねぇ…素直でいい奴…で、可愛いな、やっぱ)
「おや、どうした?顔が赤いぞ、幸村〜」
「………うるさいです。黙ってメシ食って下さい、信玄様」
(ふふ…仲良いな、二人とも。気が置けなくて、何でも遠慮なく言い合って……織田軍の皆もこんな感じだよね)
ふわっと心の内が温かくなっていくようだった。
「ああ、そうだ、信長。午後から大坂城下を見て回りたいんだが…案内役に朱里を借りてもいいか?」
「は? 信玄、貴様っ…」
不機嫌さを隠さぬまま無言で箸を動かして昼餉を片付けていた信長だったが、さらりと告げられた信玄の言葉に、キッと眉を吊り上げる。
その瞳には、怒りの色が色濃く滲んでいた。
「案内などいらん。勝手に見ればよいわ」
「むさ苦しい男二人じゃ入りにくい店もあるだろ?女性が一緒だと助かるんだけどなぁ」
「………ならば俺も同行する。朱里を貴様のような女好きには預けられん」