第99章 新たな出逢い
「おおっ、朱里、久しぶりだな。相変わらず美しい。まさに君は、天上から舞い降りた麗しき姫だ」
秀吉さんと広間に足を踏み入れた途端、熱烈な褒め言葉が降り注ぐ。
「っ…あ…し、信玄様、お久しぶりです。ようこそお越し下さいました。ええっと…またお会いできて光栄です」
「嬉しいことを言ってくれるね。俺も会いたかったよ。君を想わぬ日は一日もなかった、美しい俺の天女」
「っ……」
「おいっ、堂々と人妻を口説いてんじゃねぇ!信玄様っ!『俺の』って何ですか?ったく…信長にキレられても知りませんよ…」
信玄様の隣で呆れたように声を上げる若い男性は、家臣の方のようだが、信玄様に向ける話しぶりは、くだけた調子である。
「そんなに怒るなよ〜幸村。絶世の美女を目の前にして口説かない男がいるはずないだろう?」
「美女…かどうかは俺には分かりませんけど…魔王の嫁でしょ?そりゃ、やっぱり悪女なんじゃ……」
(なっ…何なのよ、この人…ちょっと、失礼じゃない!?)
「………おい、信玄、その小童を黙らせろ。貴様ら、勝手にやって来て、好き放題言いおって…」
「信長様っ…」
上座の方から不機嫌そうな低い声が聞こえて、慌てて振り向くと、苦虫を噛み潰したかの如く嫌そうな顔をした信長様が、冷ややかな視線を信玄様たちに向けていた。
「朱里、こちらへ来い。そやつらの相手などせずともよい」
「で、でも…」
「そう怒るなよ、信長。美女を独り占めしようなんて、大人げないぞ。さぁ、朱里、隣においで。甲斐の名物の餅菓子を土産に持ってきたから、一緒に食べよう」
「信玄様、いつの間にそんなもん…俺に隠れて甘味の買い溜めしないで下さいって、いつも言ってるでしょうが!」
「あ、あの、ちょっと…」
二人の言い合いに気を取られているうちに、信玄様にクイっと腕を引かれてしまい、そのままさり気なく腰に手を回されて引き寄せられ…気がついたら信玄様の隣に座らせられていた。
「っ…信玄っ!」
「の、信長様、落ち着いて下さい!昼餉、早く食べましょう!私、お腹空いちゃいました…」
信長様が怒りに任せて立ち上がろうとするのを慌てて制止する。
ここは何とか穏便にやり過ごしましょう、という思いで必死で目で訴えると、思いが通じたのか、信長様はその場に座り直して下さった。
が、その表情はこの上なく忌々しげではあった……