第99章 新たな出逢い
次の日、本丸御殿の方は朝からざわざわと騒々しい様子だった。
信長様もお忙しいのか、今日は奥御殿へ来られることもなく、私も仔細が分からないために、何となく落ち着かないでいた。
「姫様、今日は信長様もこちらにはお越しにならないようですね」
「そうね、何かあったのかしら…随分と騒がしいようだけど…」
「後で様子を見て参りましょう。それにしても…今日は信長様がいらっしゃらないので気を遣わなくていいかと思うと…本当に、ようございました」
しみじみと言いながら深い溜め息を吐く千代を見て、朱里は可笑しそうに笑う。
「ふふ…千代ったら…それ、言い過ぎよ」
「だって姫様っ…ここ数日、本当に気が安まる時がなかったのですよ!信長様は姫様にはお優しくていらっしゃいますけど、何か粗相があってはと思うと、私達、もう気が気ではなくて…」
「信長様は些細なことで皆を叱ったりする方ではないわよ。千代も長くお仕えしているのだから、知っているでしょう?」
「そうですけど…信長様は隙のない御方ゆえ、お傍にいると、つい緊張してしまうのですよ…」
「う〜ん…そんなものかなぁ…」
確かに信長様は隙のない厳しい御方だけど、子供みたいに無邪気で可愛らしいところもある御方なんだけどな…と秘かに思う。
信長様のそういう一面は私しか知らないのだと思うと、嬉しいような物足りないような、複雑な気持ちだった。
ここ数日、朝から晩まで一緒に過ごしていたせいで、信長様のお傍にいるのが当たり前になってしまっていた。
勝手なもので、今日は来られないのだと思うと、無性に寂しくなってしまう。
信長様のことを想いながらも、昨日の佐助くんとの約束も気にかかっていた。
(信長様に黙って一人で城下へ行くなんて無理だよね。もう一度ゆっくり話してみたかったけど…約束、また破ることになっちゃったな…)
やるせない思いで、はぁ…っと深い溜め息を吐いたその時……
「朱里、いるか?」
「っ…秀吉さんっ?」
珍しく忙しない足取りで入ってきたのは、秀吉さんだった。
「どうしたの?珍しいね、こんな時間に秀吉さんが奥に来るなんて。何か急ぎの用事?」
朝から本丸御殿の方が騒がしいことと何か関係があるのだろうか…