第99章 新たな出逢い
悩ましい思いを抱えながら、庭に面した廊下を進む。
陽が傾き出して、空が橙色に染まりつつある。
冬の夕暮れは早く、辺りはすぐに暗くなってしまうのだが、庭にはまだ仕事をしている庭師の姿があった。
今日は木々の剪定をしてくれていたのだろうか、切り払った枝が散らばっているのを片付けているところのようだ。
「ご苦労様です。いつもありがとう。暗くならないうちに終いにして下さいね」
立ち止まっていつものように労いの言葉をかけた朱里に、さっと顔を上げた庭師の男は音も立てずに近づいて、その場に跪いた。
「ありがとうございます…奥方様」
「えっ…ええっ!さ、さす…」
「シッ!お静かに、朱里さん。そのまま庭を見てて」
「う、うん…佐助くん、その格好は…」
前回、天井裏から現れた時は完全な忍び装束だった佐助くんは、今日は打って変わってどこからどう見ても庭師だった。
「ちょっとすごい忍者、改め、新米庭師の猿飛佐助です。日が暮れる前に会えてよかった、朱里さん。少し話がしたいんだけど」
表情を変えることなく飄々とした態度を崩さない佐助くんに対して、私はといえば、もう周りが気になって仕方がなかった。
(ど、どうしよう…こんな廊下で…誰か通りかかったりしたら大変だわ…っ、それよりも早く戻らないと信長様が……)
「佐助くんっ、悪いけど、あまり時間がないの。私、部屋に戻らないと…」
「分かってる、この城の中では君とゆっくり話せないことは。困らせてごめん。それでも…俺も俺の上司も、君ともう一度、ゆっくり話がしたいと思ってるんだ」
「それは…私もだよ。せっかく親しくなったんだから、これからも二人と縁を繋いでいけたら、って思ってた。でも…佐助くん達はどういう人達なの?
私は信長様の妻だから…信長様に害を成す人とは親しくできないよ」
「誓って言うけど、それはない。君を傷つけるようなことは絶対にしない。朱里さん、明日、未の刻にあの茶屋で待ってるから…来て欲しい。俺達の素性も、その時に明かすよ」
「っ…行きたいのはやまやまだけど…今の私は、一人で城下へ行くなんて到底無理なの。信長様がお許しにならないわ」
「大丈夫だ。俺に任せて。君の願いはきっと叶うから……」
「佐助くん……?」
確信に満ちた口調が気になって、佐助くんの表情を窺おうとしたが……彼の姿はもうそこにはなかった。