第99章 新たな出逢い
「……それで?おめおめと一人で戻ったというのか?佐助」
「くっ…ただでさえ厳しかった大坂城の警備が、俺が忍び込んだあの日以降、恐ろしく強化されてしまいまして…もはや蟻の這い出る隙もないぐらいなんです。すべて明智殿の指図だそうですが」
「……明智光秀か…厄介な男だ、あれは」
信長と同盟を結ぶ以前、織田とは何度も戦場でやり合ったが、信長の腹心である光秀は権謀術数に長けた策士で、隙のない男だった。
あの男の仕事ならば抜かりはないだろう。
「それでも何度かトライしてみましたが、城には忍び込めても奥御殿から朱里さんを連れ出すのは難しくなってしまいました。朱里さんの周りには、常に信長公の目が光ってるので……」
「とら…い??また意味の分からぬことを…しかし信長め、つくづく忌々しい男だ。同盟など、今すぐ破棄して城へ討ち入ってくれようか……」
「謙信様、落ち着いて…暴れないで下さい」
「ふん、いい加減、待つのも飽きた。連れ出すのが難しければ、あちらから城を出て来られるように仕向ければよいだろう」
「それが難しいんですよ。信長公の朱里さんへの寵愛は生半可なものではなく、茶屋のご主人が言っていたように、朱里さんが一人で外出することは滅多にないようです。更には城の警備が強化されてからというもの、城内で朱里さんが一人になることも稀で……」
「何とかしろ、佐助」
「………あの、聞いてました?俺の話」
佐助は苦渋に満ちた表情をしていたつもりだったのだが、謙信には全く届いていないようだった。
朱里とは、あの短時間に話をしただけだったが、謙信にしては珍しく彼女のことを気に入ったようだった。
好敵手である信長が唯一寵愛する姫ということも、興味を持った理由の一つだろうが、それだけではなく、朱里の穏やかで誰に対しても変わらない人柄は人を惹きつける魅力があった。
佐助もまた、朱里とはもっと話をしてみたいと思ったし、謙信の命令がなくても朱里とはもう一度逢いたいという想いがあった。
(なかなか難しいミッションだけど、もう一度やってみる価値はある)