第99章 新たな出逢い
「光秀、曲者の素性とともに、城下の様子も探れ。最近、何か争い事がなかったか、見知らぬ者が出入りしておらぬか、何でもよい。些細なことでも構わぬ。調べて報告しろ」
「御意。……奥方様の身辺には警護の者を…?」
「それはよい。朱里は俺が守る」
「はっ!仰せのままに…」
優雅な立居振る舞いで信長に一礼して身を翻した光秀は、それ以上の指示を仰ぐこともなく、流れる風の如く、さぁっと姿を消した。
光秀が消えた先を険しい顔で見つめていた信長だったが、やがて何事もなかったかのように表情を無に変えて歩み出す。
今日もこれから、平常通り政務をこなさねばならない。
これが何らかの企みなのか、まだ何も分からない状況下では周りに異変を気取られてはならず、城主である自分は平静を保っていなければならないのだ。
(まずは、先程の忍びの素性を確かめる必要がある。忍びのくせに、不穏な気配など一切感じなかったのが何とも理解に苦しむところだが……害をなす者ならば捨て置けん。
第一、直接、朱里に接触をはかるなど、許せんっ!)
城内に易々と忍びの侵入を許した腹立たしさと、その忍びを庇うような素振りをみせた朱里の態度への不信と苛立ちが、信長の心を悪しき色合いに染め上げる。
本当ならば、今すぐ取って返して朱里を問い詰めたいところだが、何一つ事情が分からぬままでは、さすがにそれは気が引けた。
もう少し核心を探ってからでないと、と冷静に判断を下す武将としての自分と、愛しい女の秘め事に苛々を募らせる、みっともないぐらいに余裕がない男としての自分を、信長はどうしようもなく持て余していた。
朱里を傷つけたいわけではない。
守りたい、何者からも…
朱里に害をなす者は、誰であろうと許さん。
あやつを守れるのは、この俺だけだ。