第99章 新たな出逢い
昼下がり、吉法師を寝かしつけた後、私は自室で縫い物をしていた。
今朝、身支度をしている時に信長様の夜着に小さな綻びを見つけたので、空いた時間に繕いをすることにしたのだった。
(夜着とはいえ、信長様が気に入っておられるものだから長く着ていただきたい)
信長様の香りがふわりと香る夜着を手にしていると、昨夜愛された記憶が思い出されてそわそわと落ち着かなくなる。
穏やかな日差しが射す静かな部屋で、こうして信長様のものを繕える幸せを感じて、私は満たされた気持ちになっていた。
と、その時………
………カタンッ
頭の上で小さな物音がしたような気がして、針仕事のために俯いていた顔を上げる。
何かが外れるような小さな音は、静寂に包まれた部屋でなければ気付かないぐらいの微かな音だった。
「………やぁ、こんにちは、朱里さん」
「ひぇっ…!くっ…」
『くせものっ!』と危うく大声で叫びそうになった私の口を、一瞬の内に大きな手が塞いでいた。
『んーっ!んぐっ…んんーっ!』
(さ、佐助くんっ!?)
「驚かせてごめん。君ともう一度逢いたくて、天井裏から来てしまった。少し話がしたいんだけど、騒がずにいてもらえる?」
いきなり天井裏から降ってくるという、いかにも曲者らしい怪しさ満載ながら、眼鏡の奥の瞳を申し訳なさそうに伏せる佐助くんは悪い人には見えなかった。
同意の意思を示そうと、私は口を塞がれたまま、コクコクと頭を下げる。
ホッとしたように僅かに口元を緩めた佐助くんは、口を塞ぐ手をそおっと離してくれた。
それから、自分の口の周りを覆っている口布も外してみせる。
(佐助くん…どこからどう見ても、これは忍びの格好じゃ…)
「あ、あのっ…ええっと…佐助、くん…だよね?」
「はい、正真正銘、猿飛佐助です」
忍び装束で畳の上にきちんと正座して頭を下げる姿は、もはや違和感しかない。
「どうしてここに…?いや、私、大坂城に住んでるとは言ったけど、よく分かったね…じゃなかった!何で天井裏から??それにその格好!し、忍びだったの、佐助くん??」
情報量が多すぎて何から聞いたらいいのか、もう訳が分からない。
そもそも、こんなところを見つかったら、私も佐助くんも大変なことになる……というのに、何なのだ、この落ち着きっぷりは……