第99章 新たな出逢い
「朱里さんが信長公の正室……」
店主が奥へ去っていくのを、佐助は呆然と見つめる。
「そういえば朱里さん、小田原生まれだって言ってた。信長公の正室は小田原の北条家の姫だって、前に信玄様が言ってましたね」
「ああ、信玄のやつも『天女のように美しい』とか何とか、甘ったるいことを言っておったな。しかし、あの女、只者ではないと思っていたが…信長の正室とはな。魔王の女にしては随分と人が良さそうだったが。面白い…ますます興味が湧いたぞ」
「え…謙信様、何を…?」
二色の瞳をキラリと光らせて不敵に微笑む主君の様子に、佐助は嫌な予感しか感じない。
「魔王の女だと知ったら、俄然もう一度会いたくなった。佐助、お前、何とかしてあの女、俺の前に連れてこい」
「出ました、謙信様の無茶ぶり…というか、謙信様の方から大坂城に会いに行けばいいんじゃないですか?織田家とは一応、同盟関係なんですから…謙信様が訪ねて行ったら、信長公だって断らないと思いますけど」
「俺から信長に会いに行けだと?馬鹿も休み休み言え。何故、俺が信長を訪ねねばならん?あちらから来るのが道理だろう」
「はぁ…」
来たら来たで色々ややこしいことになりそうだ。謙信様のことだから、きっと、『俺と勝負しろ』だなんだと絡むんだろうな…などと、無表情のまま佐助は考える。
(第六天魔王には是非とも一度お目にかかりたかったが、二人が顔を合わせれば謙信様が暴れるのが目に見えてるし、ここは何とか信長公には内密に朱里さんと接触しないと…)
高く聳え立つ大坂城の天主を見上げながら、佐助は朱里を思い、僅かに口元を緩める。
信長の天下布武の総仕上げとして築城されたと言われている大坂城。
その佇まいは、外から見ても勇壮で比類なき存在感を放っているが、城内は更に絢爛豪華な装飾で溢れており、日ノ本の芸術の粋を尽くした城だと言われていた。
加えて、天下人織田信長が住まう城、警備の厳しさは並大抵のものではないだろう。
(魔王の城から天女を奪う、か……これは、忍びとしての腕が鳴る任務だ)