第99章 新たな出逢い
次々と出されるお酒を試飲するうちに、二色の瞳の男性の表情が緩んできたような気がして、ほっと安堵の息を吐いていると……
「お前は飲まんのか?」
「えっ…あ、私は、今はお酒はちょっと…控えてまして」
いきなり話しかけられてドキドキするが、お酒のおかげで警戒心を緩めてもらえたのか、少し距離が縮まったような気がする。
「そうか、なかなかに美味い酒ばかりだ。飲めぬのは勿体ないな。普段は飲むのか?」
「は、はい…嫌いではないです。あの、甘口のお酒はお飲みになりませんか?こちらのお店は、梅酒なども美味しいのですよ」
「甘いのは好かんが…梅の酒か…それは少々興味があるな」
「よかった!これなんですけど……」
お気に入りの梅酒をいそいそとお薦めしながら、楽しい時間に時を忘れるようだった。
「ありがとう、朱里さん。君のおかげで満足のいく買い物ができたよ。上司の機嫌もすっかり治って、俺の首も繋がりました」
「ふふ…気に入ってもらえてよかった。すごく沢山注文してもらえてお店の人も喜んでたよ!」
驚いてちょっと声が出ないぐらいの注文量に、改めてこの人たちはどういう人なのだろうという疑問が湧くが、随分と長居をしてしまった私はそろそろ時間が気になっていた。
「ごめん、佐助くん。私、そろそろ行かないと…」
「うん、こちらこそ付き合ってもらってごめん。連れの人が待ち惚けになってないといいんだけど…」
「え、ええっ!?連れ、って…どうしてそれを…?」
「茶屋で、君が注文していたのは二人分のお茶と甘味だった。甘味はまだ手付かずだったから、連れの人が席を外してて待ってるところだったのかな、って」
「……………」
(やっぱり佐助くんって……只者じゃないっ!)
「朱里…」
佐助くんの観察眼に度肝を抜かれて固まっていると、二色の瞳の男性に思いがけず名を呼ばれる。
「今日は世話になった。これほどの美酒が手に入ったのも、お前のおかげだ。改めて礼をしたい。明日、また先程の茶屋で待っているゆえ、来い」
「えっ…そ、それは…ちょっと…それにお礼なんて…いいですよ」
(明日、信長様に言わずに城下へ出られるかどうかも分からないし)
「駄目だ、礼はせねばならん」
「っ……あ、私…もう行きます。じゃあ……」
明確な約束をせぬまま、二人の前から足早に去り、私は茶屋へと戻った。