第99章 新たな出逢い
「へぇ…じゃあ、朱里さんは大坂城に住んでるんだ。上方訛りがないってことは、元々は大坂の生まれじゃないの?」
「うん、生まれは相模国、小田原だよ」
眼鏡の男性…佐助くんは表情はほぼ変わらないが、話してみると意外と気さくな人だった。
時折、異国のもののような言葉を話すのが不思議に感じられたが、すぐに打ち解けて、道すがらの会話も弾んでいた。
反対に、佐助くんの主君だという二色の瞳の男性は終始気難しい顔をしていて…なかなか話しかけられずにいた。
佐助くん曰く、『訳あって名乗れないけど、怪しい人ではない』らしい。
信長様が特別なお酒を贈ったかもしれない相手…気にはなるけど、何となく聞きづらく、こちらとしても本当の素性は明かし難くて、『大坂城に住んでいる織田家中の娘』と名乗ってしまった。
(いい人達みたいだけど敵か味方か分からないし…信長様の妻だって名乗るのはまずいよね)
「朱里さん、気にしないで。美味しいお酒が手に入れば、機嫌は治ると思うから…大丈夫、俺は嘘は言わない」
「おい、佐助、何をコソコソ話している?」
鋭くジロリと睨まれて、慌てて口を噤む。
「うぅ…緊張するな…」
「すまない、気を遣わせて…」
「いいんだけれど…佐助くんは平気なの?主君に斬られそうになっても…」
「大丈夫、そう簡単に斬られたりはしない。俺はちょっとすごい部下だから」
「ふふ…佐助くんって、ほんと面白いね!」
佐助くんは、まるで昔からの古い友人のように話しやすい人で、不思議となんでも話してしまえるような安心感のある人だった。
(初対面なのに、全然そんな風に思えないな)
連れ立って大通りを歩いて行くと、さほど進まないうちに前方に、一軒の酒屋が見えてきた。
「これは朱里様、いらっしゃいませ!珍しいですね、今日はお一人ですか?」
「は、はい…あの、こちらの御方が美味しいお酒を探しておられるのでご案内いただけますか?」
「勿論ですとも!朱里様のお知り合いの御方でしたら格別美味い酒をご用意します!試飲もできますので、さあどうぞ!」
酒屋の店主はいそいそと奥へと案内してくれる。
(城下の商人たちは私が信長様の妻だと知ってる者も多いから…信長様の名前を出さないように気をつけなくちゃ……)