第99章 新たな出逢い
この目の前の威圧感たっぷりの武将は、信長がわざわざ特別な酒を贈る相手ということだろうか…一体、誰なんだろう?
「おい、女、今は買えぬとはどういう意味だ?いつなら買える?」
「あ、ええっと…」
あの酒は信長様の許しがないと売れないはずだ。それゆえに、酒屋で聞いても教えてもらえなかったのだろう。
「その、このお酒は市中では売っていないのです。信長様の…特別なお酒なので」
「ほぅ…魔王がこれを独占しているとはな…許し難い」
二色の瞳が、ヒヤリと冷たく色を為す。
「っ……それは…仕方がないです。ここは信長様の城下ですから」
「ふんっ…つまらぬ」
私の言葉を聞いて、すっかり機嫌が悪くなってしまったようだ。
「あの…このお酒を買うのは無理ですけど、これと同じぐらい美味しいお酒を扱っている店もあるんです。もしよければご案内致しますけど…」
助けてもらったお礼もしたかったし、酒を求めてわざわざ大坂まで来たという男を失望させたくなかった。
「同じぐらい美味いか…その言葉に偽りはないな?」
「は、はいっ…」
「よし、ならば案内しろ。佐助、行くぞ」
「はい。すみません、お世話になります」
ビシッと折り目正しく頭を下げられる。
こうして私は、独特の雰囲気を醸し出す二人を酒屋に案内するために茶屋を出たのだった。
信長様との約束は頭の片隅にあったが、二人を案内したらすぐ戻ればいい、と…その時の私は安易に考えていたのだった。