第99章 新たな出逢い
「それで、例の酒は見つかったのだろうな?」
ギロリと鋭く睨みながら男が問うと、佐助と呼ばれた男性は眼鏡の奥の瞳を僅かに曇らせた(ように見えた)
(この人、全然表情が変わらない!何者??)
「それが…城下の酒屋を探したんですが見つからなくて…」
「何だと?見つからなかったとは…聞き捨てならん。斬る!」
(ええっ……)
いきなり刀の柄に手を掛ける様子に慌ててしまう。
「あ、あのっ、落ち着いて下さい。いきなり斬り合いなんて…お知り合いの方ではないんですか??」
「すみません。この人の『斬る』は出会い頭の挨拶みたいなものなので…お気になさらず。どうどう…」
全身から殺気を漲らせた男と、無表情のまま飄々とした態度を崩さず宥める男を交互に眺めながら、朱里はかける言葉を失っていた。
(何だろう、この人達…独特すぎるっ…)
「全く…目的の酒がないとは、何のためにこんなところまで来たのか分からん。行くぞ、佐助。遣いもまともにできなかったお前を一から鍛え直してやる」
「いきなりの理不尽なお仕置き宣言…パワハラ上司ここに現わる」
「ぱわ…はら…?意味の分からぬことを言うな。斬る」
「あのぅ…大坂城下で何かお探しのものがあるんですか?」
店を出た途端斬り合いが始まっては大変だと思い、恐る恐る声をかけてみる。
声をかけた途端、ジロリと冷たい視線を送られて怯みそうになるが、ぐっと二色の瞳を見返す。
「お二人は旅の方ですか?どちらからお越しになったのですか?城下で探し物なら、私、お役に立てるかもしれません」
「ありがとうございます。俺たちは、とある北の国から、このお酒を求めてやってきた主従です。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げると、懐から酒瓶の表書きを出して見せてくれる。
「城下の酒屋さんで聞いてみたんですが、どこの店にも置いてなくて…」
「これは……」
「これは、さる男から贈られた酒だが、なかなかに良い味わいだったのでな、もっと飲みたくなったのだ」
「これは…今の時期は城下では買えません」
「えっ…それはどういう…?」
二人が探している酒は、信長が城下の蔵元に特別に作らせている酒で、作られる時期も量も決まっていて市場にはなかなか出回らないため、一般に購入することは難しいものだった。
(これを贈られたって……信長様から?)