第99章 新たな出逢い
(っ…誰?すごい殺気だわ…)
その場にいるだけで周囲を威圧する存在感は、信長にも通じるところがある。
全身から漲る殺気だけで敵を倒してしまうのではないかと思うほどに、男の様子は他を圧倒していた。
見るからに只者ではない気配を漂わせる男を、他の客たちも固唾を飲んで見ていたが、牢人の男はそれでも虚勢を張ろうとしているのか引かなかった。
「大きな口叩きやがって…おい、この女がどうなってもいいのか?」
首に刀を突きつけられているにもかかわらず、男は私を羽交締めにする。
「愚かな…この俺がお前ごときに遅れを取ると思うのか?女、嫌なものを見たくなければ目を瞑っていろ」
(えっ…?)
「ぎゃああぁ!」
ハッと思った時には、私を羽交締めにしていた力が緩み、牢人の男は腕を押さえてその場に蹲っていた。
切られた…わけではないらしい。峰打ちだったのだろうが、激しく打ち据えられたために腕が折れたようだった。
(っ…速いっ…傍にいたのに、何がどうなったのか全然見えなかった…)
それほどに男の剣技は洗練されたもので、牢人の仲間達は一瞬で自分達との格の違いを認識したらしく、早くも及び腰だった。
「ふっ…他愛ない。これでは、佐助を待つ間の暇潰しにもならんな」
つまらなさそうに呟く男の視線を避けるようにして、牢人たちは転がるようにして店の外へ出ていった。
「あ、あの…ありがとうございました、助けていただいて」
店のご主人を助け起こしてから、改めて男の前に向かい合って礼を言う。
(あ…この人…目の色が左右で違うんだわ。澄んだ緑と深い海のような青…なんて綺麗なんだろう)
男の二色(ふたいろ)の目の美しさに思わず見惚れてしまっていた私を、男は不審そうに見る。
「別にお前を助けたわけではない。騒がしい輩がおっては、ゆっくり茶も飲めぬから追い出しただけだ。本来なら酒が飲みたいところだが…」
「え?」
男の顔が不機嫌そうに顰められた、その時だった。
「あのー、これは何の騒ぎですか?」
気の抜けたような軽い口調で問いながら、店先にひょっこり顔を出した男の人がいた。
「佐助!遅いぞ!どこで遊んでいた?」
「遊んでません。ここは外なので、刀に手を掛けるのはやめて下さい」
(誰だろう…知り合いみたいなのに、殺気が凄い…?)