第99章 新たな出逢い
「なっ……(なんて勝手なことを…)」
男の理不尽な要求と下卑た笑い方に、怒りとともに、ぞわりと寒気が走るようだった。
それでも、町の人が理不尽に虐げられているのを黙って見ていることはできず、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「謝りません!悪いのはそちらでしょう?言いがかりはやめて下さい!」
震える足にぐっと力を入れて立ち上がり、男を睨む。
「チッ、生意気な女だな。俺ら牢人を馬鹿にしてるんだろ?俺達は信長のせいで仕える御家を無くしたんだ。天下布武だか何だか知らないが、戦もなくなって次の仕官先も見つからねぇ。全部、信長のせいだ!」
「っ……」
(この人達…信長様に戦で負けた大名の家臣達なんだ。信長様を…織田軍を恨んでる人達…)
「自分のお膝元である大坂城下で織田家に縁のある女が辱めを受けたとなったら、信長の権威はさぞかし地に落ちるだろうなぁ?」
「っ……あっ……」
男は腰に差していた刀をスラリと抜き放ち、その切っ先を私の顔の前へと突き出した。
「大人しくついて来い。安心しな、すぐ気持ち良くしてやるよ」
ねっとりとした気持ちの悪い嘲笑を浮かべた男は、刀を構えたまま私の手を乱暴に掴んだ。
「っ、いやっ、離してっ!」
「うるさいっ!じっとしてろ!」
無理矢理連れていかれそうになって暴れる私に、男の手が上がる。
(っ…殴られるっ…)
けれど……恐怖心から身を固くした私に、男の手が触れることはなかった。
「お前たち、騒がしいぞ。せっかくの茶が不味くなる」
いつの間にか、一人の男が男達の背後に立っていた。
その手にはギラリと妖しい光を放つ一振りの刀が握られており、牢人の男の首に、一分の隙もなくピタリと据えられていた。
「な、なんだテメェは…どこから現れやがった?」
「俺は先程からずっとこの店にいた。全く、そんなことにも気付かぬ輩とは、つまらん」
「なっ………」
全身から殺気が滲み出る鋭さとは反対に、その顔は憂いに満ちている。
「怪我をしたくなければ、さっさと去れ。お前らなど、この『姫鶴一文字』の相手にもならん」
ふんっと鼻で笑いながら、口元に酷薄な笑みを浮かべる様子に、思わず目が逸らせなかった。