第19章 金平糖を奪還せよ
翌日、私達は城内の書庫にやって来ていた。
安土城の書庫は、軍事や内政に関する書物だけでなく、信長様が京や堺から集められたものや南蛮からの珍しい書物などが所狭しと並べられていて、豊富な蔵書量を誇っていた。
引き戸を開けて中に入ると………そこには三成くんがいた。
「三成くん!」
「…………………」
(あっ、これは話しかけても無駄なやつだ……そっとしとこう)
「…信長様、三成くんのことは気にせず、探しましょう。
たぶん、私達のこと、気付いてないですよ」
「…貴様、なかなか淡々とひどいことを言うな…」
二人して書物の並んでいる棚を、端から順に覗いていく。
棚の奥も、書物を取り出しながら念入りに見ていくと、なかなかに手間が掛かる。
半刻ほど掛かって漸く全ての棚を調べ終わったが……
金平糖はどこにも見当たらなかった。
「…う〜ん、ここにもなかったですね。
書庫は結構いい隠し場所だと思ったんですけど…」
「…秀吉のやつめ、なかなかに策を弄してくるではないか」
口の端を上げて不敵に笑う信長様。
(信長様、楽しそうだな。子供みたいでほんと可愛い)
無意識にニヤニヤしていたようで、信長様が私を不審そうに見て、いきなり近くの壁にドンっと手を付き、私を閉じ込めた。
「…っ、何ですか、急に??」
「ふっ、貴様がニヤけた顔をしておるからだ。
何かいやらしいことでも考えていたのか?」
「やっ、そんなこと、考えて、ませ、ん…ん」
信長様の顔がグッと近づいてきて、唇が触れそうになった瞬間……
「これは御館様、朱里様、いらしてたんですか?
ご挨拶もせず、申し訳ございませんでした」
三成くんの平和そうな声が聞こえて、見ると書物から目線を上げた三成くんが穏やかに微笑んでいた。
「あっ、三成くん!私達、もう用は済んだから行くねっ!」
信長様の腕が緩んだ隙にすり抜け、足早に書庫を出る。
「くくっ、三成のせいで口づけし損ねたな」
「えっ?何か仰いましたか?」
またしても金平糖は見つからず、私達は別の策を練ることとなった。