第19章 金平糖を奪還せよ
その日の夜
私と信長様は皆が寝静まった頃合いに、二人して厨に忍び込んでいた。
「…信長様、こっちにはないです。
そちらの棚はどうですか?」
「うむ、こちらにも見当たらんな…
秀吉のやつ、いつもはこの辺りに隠しておるのに…」
薄暗い厨の中で蝋燭の灯りを頼りに、棚の中を隅々まで見ていくが、金平糖の小瓶は見つからない。
少し高い所の棚を背伸びして覗き込んでいた私は、足元がぐらついて倒れそうになる。
「っ、きゃあ」
(わっ、倒れるっ)
「っ、朱里っ」
危うく倒れそうになったところを、信長様が背後からギュッと抱き止めてくださった。
「あ、ありがとうございます、信長様」
「ふっ、貴様は本当に世話の焼ける女だな」
その時、廊下の方からこちらに向かって歩いて来る足音が聞こえる。
信長様がフッと蝋燭の灯りを吹き消して、私の身体を引き寄せながら近くの棚の陰に隠れた。
ガラッという音とともに引き戸が開かれて、暗闇の中に灯りが差し込んだ。
「…誰かいるのかっ?」
(っ、この声、秀吉さんだ!)
「………おかしいな、灯りが漏れてたように思ったんだが…。
微かに人の声もしたような気もするが…気のせいか…」
そう言いながら厨の中に灯りをかざして、辺りを窺っているようだ。
(どうしよう??秀吉さん、諦めて早く出て行って!)
信長様の腕の中で、祈るように様子を窺っていると、暗闇の中で突然、首筋に熱い唇が押し付けられ、強く吸われる。
(の、信長様??何するの?)
『っ、あっ』
口を押さえて声が漏れないように我慢するが、信長様はお構いなしに首筋に舌を這わせ、耳たぶを甘噛みしてくる。
耳に熱い吐息を直に注ぎ込まれて、背筋にピリッと電流が走ったような心地になってしまう。
(やぁん…どうしよう…声が漏れちゃう…
秀吉さん、早く立ち去ってっ)
「…気のせいだったみたいだな。
御館様のお声のような気がしたんだが…そんなはずないか」
秀吉さんが去っていく足音を聞きながら、私を抱き竦めている信長様の腕を強引に押しのける。
「…もうっ!信長様、何するんですかっ。
秀吉さんに見つかるところでしたよ??」
「くくっ、よくぞ堪えたな」
「…ゔぅ〜、もうっ、私で遊ばないで下さいっ!」
結局、厨で金平糖は見つからず、私達は別の場所を探すことにした。