第99章 新たな出逢い
心配そうに何度も私を見る信長様と、申し訳なさそうに謝る秀吉さんを見送って、一人、茶屋の椅子に腰掛ける。
女将さんが持ってきてくれた二人分のお茶と甘味を横目で見ながら、ふぅっと小さく溜め息を吐いてしまった。
(急ぎのご用事だもの、仕方ないよね。私は待っていることしかできないけど…)
楽しみにしていた甘味も先に一人で食べる気にはなれず、お茶だけを少しずつ飲みながら、ぼんやりと通りに目を向ける。
活気のある呼び込みの声や楽しげな会話が聞こえてきて、大坂城下の賑わいを肌で感じる。
信長様が市における関銭を廃止し、商人同士の自由な競争を認めておられるおかげで、大坂城下の商いは年々盛んになってきているようだった。
どれぐらい時間が経ったのだろうか、すっかりぬるくなってしまっていたお茶を飲み干した、その時だった。
ーガシャンッ!
(っ……何?)
近くの席で茶碗が割れるような音がして、見ると茶屋のご主人が座り込んでいた。
足元には割れた茶碗が散乱し、茶が床に飛び散っており、ご主人を取り囲むようにして牢人風の武士達が立ち上がっていた。
「おいおい、着物が濡れちまったじゃねぇか、どうしてくれるんだ、ああ?」
「そ、そんな…茶碗を落としたのはそっちじゃないかっ…」
「はぁ!?俺達がわざとやったって言うのか?おいおい、言いがかりを言うんじゃねぇよ。俺達がやったっていう証拠はあるのか?」
「それは……でも…」
「この店は証拠もねぇのに客を疑うのか?町人のくせに、武士に楯突くとは生意気な奴だ」
男は威嚇するように言うと、茶屋の主人の肩の辺りを足蹴にする。
「あぁ…う、くっ…」
ご主人が床に倒れるのを見た瞬間、反射的に立ち上がって駆け寄っていた。
「っ、ご主人っ、大丈夫ですかっ?」
「あっ…朱里様っ…」
庇うように間に割って入りながら、倒れ込んだ主人を抱き起こす。
倒れた拍子に床にぶつけたのか、茶屋の主人の額に血が滲んでるのを見て、かぁっと身体が熱くなった。
「乱暴はやめて下さい!」
「何だ、お前は‥部外者は引っ込んでろ……ん?何だぁ、随分と別嬪じゃねぇか…着てるもんも上等だしなぁ…織田軍の武家の娘か?
へへ…お前が代わりに謝ってくれるんなら許してやってもいいぜ?おっと、謝るって言っても口でじゃねぇぞ。その身体を使ってだぞ?くくくっ…」