第99章 新たな出逢い
「やっ、もぅ…!」
他愛ない言い合いをしながら、手を繋いで大通りを歩いていく。
どの店も賑わっていて、人々の顔は活気に満ちていた。
ひととおり城下を散策した後、馴染みの茶屋で休憩をする。
信長様がお茶と甘味を注文してくれて一息つく。
「はあぁぁ……」
「……疲れたか?」
久しぶりによく歩いた私を気遣うように、信長様の手が着物の上から太腿に触れる。
「いえ、大丈夫です!信長様こそ、退屈ではありませんでしたか?私、久しぶりで楽しくて、あちこち見て回り過ぎました…」
反物や簪、化粧道具など、女物の店をいくつも回ってしまった。
目移りするぐらいに素敵な品々に時間を忘れて見入ってしまい、いつになくはしゃぎ過ぎてしまった。
信長様は文句も言わず一緒に見ていて下さったが、殿方には退屈な時間だったのではないかと、今更ながら心配になってくる。
信長様は私の言葉に意外そうに目を瞠り、ふっ…と柔らかく口元を緩める。
「貴様と共にいて退屈など感じるわけがない。俺に遠慮などせず、楽しめばよい」
「信長様……」
優しい言葉にふわりと胸の内が暖かくなる。
信長様に無性に触れたくなって、膝の上に置かれた信長様の手に自分の手をそっと重ねていた。
「っ…朱里っ……」
互いに自然と見つめ合う形になり、信長様の手が私の腰を引き寄せていた。
(ん…ここは外だけど…どうしよう、もっと触れたい…)
信長様の瞳を見つめながら、そっと目を閉じかけたその時………
「っ…御館様ぁーっ!」
(…………え?)
微かに聞こえた信長様を呼ぶ声に、閉じかけた目蓋がピタリと止まる。
気のせいかと首を傾げて辺りを見回すと……
「えぇっ!?秀吉さん?」
通りの向こうから信長様を呼びながら駆けて来ていたのは、秀吉さんだった。
「秀吉、何事だ?」
はぁはぁと息を吐きながら私達の前まで走ってきた秀吉さんは、信長様の前にサッと跪く。
「お寛ぎのところ申し訳ございません。先程、京より文が届きまして、御館様に急ぎご確認をいただきたく…」
秀吉さんは信長様に深く首を垂れつつ、一通の文を恭しく差し出す。
信長様は無言で秀吉さんを見下ろしながら、文を受け取ってすぐに目を通し始めた。