第99章 新たな出逢い
年明けからの慌ただしかった日々もようやく平常に戻りつつある今日この頃、私は久しぶりに信長様と城下で逢瀬をしていた。
吉法師が産まれてからは、二人きりで外出する機会も限られていて城下へ来るのもかなり久方ぶりのことだった。
「わぁ…城下は相変わらず賑やかですね!前に来た時よりもお店も増えたみたい。露店も種類が沢山ありますね!」
「ああ、京や堺から移転してくる店も増えているし、ここで新しく商売を始める者も多いからな。店が増えれば人の往来も増える。商人達が困らぬよう、城下の整備にも力を入れねばならん」
忙しなく行き来する人波に穏やかな目を向けながら、信長は立ち並ぶ商家の町並みに注意深く気を配っていた。
戦が減り、信長が直接戦場に出向く機会も減っていたが、それによって暇ができたわけではなく、寧ろ天下人として、日々考えねばならぬこと、やらねばならぬことは増える一方だった。
(毎日お忙しい信長様…今日は久しぶりのお休みだもの、ゆっくりと気を休めていただきたいな)
そうは思えど、お忍びでもやっぱり目立ってしまうのが信長様だ。
大通りを歩いていると、あちこちから声をかけられてしまう。
「信長様!よかったらウチの店にも寄っていって下さい!堺から珍しい異国の品を仕入れたんですよ」
「信長様、若君様はお健やかにお育ちでいらっしゃいますか?早くお目にかかりたいなぁ」
「信長様ーっ!こっちも見て下さい!」
(はぁ…相変わらず町の人達からの人気が高いなぁ、信長様)
町の人達に話しかけられるたびに足を止めて店先を覗いたり、あれこれ質問したりと、少しも厭うことなく応じておられる姿を、尊敬の眼差しで見る。
威圧感のある雰囲気と戦場での鬼気迫る戦いぶり、時に非情とも思われる仕置きのために、『魔王』と恐れられてきた信長だったが、こうして民達と親しく交わる彼の気さくな性質は、少しずつ広まっているようで、皆が城主である信長に遠慮なく接している城下の何気ない風景が朱里は嬉しかった。
「朱里、どうした?何をニヤけてる?」
町の人に囲まれる信長様を見ていたら嬉しくて、いつの間にか口元が緩んでいたみたいだ。
「あっ…いえ、町の皆さんも久しぶりに信長様に会えて嬉しそうだなって思ったら、私も幸せな気分になっちゃって…」
「ふっ…俺は貴様のその呆けた顔が見られて嬉しいがな」