第98章 翠緑の恋情
燦々と輝く太陽の光が障子を通して射し込み、寝所の中は薄明るくなり始めていた。
固く引き結んだ目蓋の上に光を感じて、無意識に目元がピクピクと揺らぐ。
(んっ…もう朝…?)
朝の訪れが漂い始めた気配に、寝台の上でモゾモゾと身動ぐ。
広い寝台の上で手足をうんと伸ばすと、心なしか身体のあちこちが重怠い。
昨夜は散々に愛を注がれ、半ば意識を失うようにして微睡の中に落ちたのは、ほんの少し前のことであった。
眠ったのか眠ってないのか分からぬぐらいの僅かな微睡のため、身体にはいまだ情事の名残りがありありと残っているようで…身動いだ拍子に足の間からドロっと滑りのあるものが流れ出た感触に、思わず小さく身体を丸めた。
(っ、やっ…出ちゃっ…んっ…信長様のが流れちゃう…)
粘り気のあるドロっとしたものが太腿を伝って流れていく感触にひどい罪悪感を感じてしまう。
一晩中、溢れんばかりにたっぷりと注がれた信長の精は、朱里の蜜壺に全部は留まりきらなかったらしい。
愛しい男の精が身の内から出ていってしまうことに、何とも言えない寂しさを感じながらも……
(やっ…早く拭かないと敷布が汚れちゃう…)
勢いよく起き上がって更に流れ出てはいけないと思い、僅かに上半身を浮かせて枕元に置いてあるちり紙に手を伸ばす。
「……あれ?」
ちり紙の入った紙箱の隣に、見慣れぬ小さな桐の箱が置いてあるのが目に入り、思わず伸ばしかけた手が止まる。
こんなものは昨夜はなかったように思うが、何せ昨日の記憶は既に曖昧だった。
(これ、何だろう…信長様が置かれたのかな…?)
チラリと隣に視線をやると、こちらに背を向けて横になっている信長の姿が見える。
私が身動ぐ気配にも気が付かないということは、まだ眠っておられるのだろう。
(私が眠った後に置かれたのかしら……何が入ってるのか、気になるっ…)
箱を横目で気にしつつも、乱れた身を整えて夜着を直すと、ようやく一息吐く。
「はぁ……」
一息吐いたら、やはり箱の中身が気になるのだ。
(私の枕元に置いてあったんだから、私が見てもいいよね?)
我ながら都合がいいことを、と思いながらも、気になるものは仕方がないと、自分に言い訳をして箱を手に取る。
高価な桐の箱は木目も滑らかで美しく、丁寧なつくりだった。
箱の蓋を、そおっと開いてみると…………