第98章 翠緑の恋情
尖らせた舌先で首筋をツーっとなぞり、耳朶を柔らかく喰む。
「どうして欲しい?今宵は貴様の望むままに愛でてやろう」
耳奥へ甘い吐息を注ぎ込むように囁かれ、頭の奥が痺れるような感覚に陥る。
「んっ…やっ、あっ…望みなんてっ…んっ…」
「ない、などと言うなよ?貴様はもっと欲張ればよい。今宵は貴様が俺に命じよ。誕生日当日に祝ってやれなかった詫びだ。貴様が望むとおりにしてやる。さぁ…何なりと御命令を…奥方様?」
「やっ…んっ…そんなっ…」
(私が信長様に命じるなんて…そんなこと出来ないよ…)
胡座を掻いた足の間に乗せられた身体は、背後からぎゅっと抱き締められていて、信長様の熱い息が絶えず耳元にかかり、じわじわと身体が熱くなってきていた。
「やっ…意地悪しないで、信長さまっ…」
「これは意地悪ではない。俺は貴様の望みを叶えたいだけだ」
「んっ…ンンッ…はぁ…」
焦らすようにチロチロと首筋を舐められて、ゾクリと背を震えが駆け上がる。
「やぁ…もぅ…そこばっかり…やっ…」
「ん?では、次はどこがよい?ここか?それとも…ここか?」
首筋を這っていた舌は、耳朶や目蓋、口の端へと次々に移動していくが…何故か唇にだけは触れてくれない。
焦ったくて堪らずに、甘い吐息が溢れ、強請るように半開きの唇が震えてしまう。
「ふ…ぁ…んっ…やっ…もぅ、焦らさないで…」
「くくっ…欲しければこの口で俺に命じろ。何と言えばよいか、分かるだろう?」
信長様は骨張った指で、ツーっと私の唇の上をなぞりながら言う。
悪戯っぽく口角を上げるその顔で私に『命令しろ』と言いつつも、今、この場の主導権は完全に信長様のものだった。
「んっ…く、口付けして、信長様…」
「朱里、俺は命じろと言ったのだぞ。分からぬ奴め。やり直しだ、もう一度、言い直せ」
「やっ…んっ…」
(やり直しなんて、うぅ…ひどい…恥ずかしいのにっ…もぅ…なんでこんなことになっちゃったんだろう…)
誕生日を忘れていた(?)詫びだと言いながら、いつの間にか私が信長様に責められるような有り様になっていることに、戸惑いを隠せない。
が、言い出したら引かないのが信長様だ。
私が信長様に命令するなんて、想像しただけで、もう腰が引けているが…やらないと許してくれないだろう。
羞恥と緊張のせいで渇いた唇を、震えながら開く。