第97章 愛とは奪うもの勿れ
「それに、よく考えたら摂政の娘である私が武家の側室なんてあり得ないと思わない?私の身分なら入内することだって夢じゃないのよ。見ててご覧なさいな。京へ戻ったら私、信長様以上の殿方を捕まえてみせますわ!」
ツンっと顎を上げて自信たっぷりに言い放つ綾姫は、それでもどこか寂しそうだった。
(綾姫様はやっぱり信長様のこと本気で…でも、私もこれだけは譲れない。信長様は私にとっても唯一無二の御方だから…)
「綾姫様…ご無礼をお許し下さい。でも、私にも譲れぬものがございます。信長様は私にとって、ただ一人の大切な御方。その御身も御心も…誰にも渡したくない。私は公平で優しい女などではなく、ひどく欲張りな女なのです」
朱里が自嘲気味に口元を歪めるのを見て、綾は初めて心から楽しげに笑う。
「ふふ…いいじゃない。女は皆、欲張りなのよ。好いた殿方のことは特にね。嫌いじゃないわよ…そういうの」
「綾姫様……」
二人の姫は悪戯っぽい視線を交わすと、どちらからともなく、ふふっと小さく笑みを溢した。