第97章 愛とは奪うもの勿れ
「………そのような冷たい御方のことなど諦めておしまいなさい。御館様が貴女をお傍に召されることなど…万に一つもない。
あれをご覧なさい。御館様は奥方様にあのように…身も世もなく溺れておられる」
光秀の言葉に促されるように上座の方へ目を遣ると……
「っ………」
食事もそこそこに、朱里を膝の上に乗せて今にも唇が触れそうなほど顔を寄せる信長の姿を見てしまう。
「やっ…ちょっと、信長様!?人前ですよ?降ろして下さいっ!」
「んー?」
「こんな格好じゃ、食べられないですよ?お食事、まだ途中ですよね?」
「くくっ…飯より貴様を喰らいたい気分になった。今すぐに…な」
言いながら、唇が頬を滑っていく。
「んっ…やっ、ダメですよ…皆、見て……」
顔を背けようと身を捩るが、信長の無骨な手は朱里の顎を捕らえていて離れられない。
唇が頬を柔らかくなぞっていき、チュッと音を立てて唇同士が重なった。
「んんっ…あっ、はぁ…」
(やだっ…皆の前で口付けなんて…どうしちゃったの、信長様!?)
普段から、所構わず本能の赴くまま触れてくる信長ではあるが、さすがにこんな朝餉の席で武将達も勢揃いしている中で…というのはあり得ない。
「んんーっ!(ダメですっ、信長様っ!)」
パクリと食べるように唇を塞がれて、声も上げられない。
皆の好奇の視線をひしひしと感じて焦る朱里にはお構いなしに、信長の口付けは次第に深くなる。
角度を変えて深く貪りながら、舌先で口唇をツンツンと押されて唇を開くように要求される。
開いてしまえば、あっという間に口内を蹂躙されるのは目に見えている。
これ以上はダメだとギュッと唇を引き結んで抵抗する私を見て、深紅の瞳がきゅっと細められる。
「んっ…ふっ…あ…」
鼻から抜けるような頼りなげな吐息が溢れる。
息が苦しくなって、固く閉じていた唇が開きかけた時……