第97章 愛とは奪うもの勿れ
身支度を整えて、朝餉のために広間へ向かう。
結局、首筋の赤い証は白粉を塗り重ねても完全には隠せなかった。
(どうしよう…やっぱり目立つかな。うぅ…変に思われるかな…)
広間へ向かう間も気が気ではなく、しきりに襟元に触れてしまう。
俯きがちに広間へ入ると、信長は既に上座についており、武将達も揃っていた。
「おはよう」
信長は、チラリと首筋の辺りに視線を向けて意味深に口の端を上げる。それだけで、かぁっと身体の奥が熱くなった。
「お、おはようございます、信長様」
思わず首筋を押さえながら挨拶をして隣の席についたが、皆の視線が気になってそわそわしてしまう。
「おいおい、あの二人、朝から見せつけてくれるな」
「まぁ、いつものことではあるがな」
「それにしたって…なぁ、あれ見ろよ。朱里のやつ、あんな色っぽいもん付けられちまって…ったく、こっちの目に毒だぜ」
「昨夜は、さぞかし熱い夜だったんだろう。いやはや、仲睦まじいことだ」
「おい、光秀っ、御館様に向かって無礼だぞ!御館様の、ね、閨を想像するなんて…」
「秀吉さんこそ、何、想像してるんですか?はぁ…もう朝っぱらから…頭痛い」
「頭痛ですか?家康様。それはいけませんね。頭痛には梅干しが効くそうですよ。確か、こめかみに貼ると良いとか…」
「はぁ!?そんなもの貼ってどうすんの?っていうか、そんなこと聞いてないから…黙って、三成」
(うぅ…やっぱりもう皆に気付かれちゃってる。もぅ、信長様のせいなんだからっ…)
隣の信長様にジトっと恨めしげな目を向けると、ばっちり目が合ってしまい……
「何だ?何か言いたそうだな」
「だ、だって…信長様のせいで…」
「は?何のことだ?」
訳が分からないという顔をしながらも、信長様の目線は私の首筋に向いて…ニヤリと不敵に笑われた。
(もぅ、やっぱりわざとだ。恥ずかしいのに…)
「……目立つところはダメって言ったのに…信長様は意地悪ですっ」
「俺のものに俺の証を付けて何が悪い?」
「そ、それは…恥ずかしいから…」
「何を恥ずかしがることがある。俺に存分に愛された証だ。見せつけてやればよい」
「っ………」
信長様に、隅から隅まで愛された証。
それはとっても嬉しいことだけれど………