第95章 雪の日に
そうして千鶴があれこれ世話を焼きながら看病をする間、秀吉は熱のせいもあり、うつらうつら寝たり起きたりしていた。
もともとが頑丈な身体で風邪なども滅多に引かない方だが、それ故に珍しく体調を崩した時ほど堪える。
朝は何としても登城せねばと気を張っていたから起き上がれたが、一度横になってしまうと、日頃の疲れも重なってか、どうにも身体が重怠いのだった。
更には、こうして一人で布団に横になっていると、気持ちが弱っているのか、らしくもなく心細い思いがしてくるのだ。
今頃、御館様はどうされているだろう。
政務は順調に片付いているだろうか。
金平糖は食べ過ぎていらっしゃらないだろうか。
朱里と、人目を憚らずイチャイチャなさってはいないだろうか。
(いつまでも仲睦まじいのはよいことだが、人前では少しは遠慮してもらわないと…)
「はあぁ……」
心配し出すとキリがないとは分かっているのだが、御館様のこととなると気になって仕方がないのだ。
(体調を崩してお傍を離れるなど、情けない。誰よりも近くでお仕えするのが俺の務めだというのに…)
予期せず寝込むことになってしまった自分が情けなくて、秀吉は深く溜め息を吐く。
熱のせいで続いている頭痛に堪えるように目を閉じていると、やはり疲れが溜まっていたのだろうか、次第に眠気が襲ってくるのを感じる。
(っ…寝てる場合じゃねぇのに…目蓋が重くて…堪らねぇ)
襲いくる眠気に抗うこともできず、秀吉はゆっくりと意識を手放した。