第95章 雪の日に
「まぁ、よい。彼奴は働き過ぎだ。良い機会だからゆっくり休ませろ。こちらも…鬼の居ぬ間に何とやら、だな」
「「「「……………」」」」
ニヤリと不敵に笑う信長を見て、武将達はなんとも言えない表情で顔を見合わせる。
(気の毒にな、秀吉。金平糖を探す気満々だぞ、あれは)
(ゆっくり羽を伸ばしたいのは、信長様の方なんじゃ…)
「信長様…秀吉さん、大丈夫でしょうか?心配なので私、お見舞いに行ってもいいですか?」
微妙な空気が漂う武将達の様子に気付くことなく、朱里は心配そうに顔を曇らせて言う。
「見舞い…なぁ…行っても構わんが…貴様以外にもっと適任の者がおるだろう?」
「えっ?」
「……千鶴を行かせよ」
「あっ!そっか…そうですよね、千鶴に行ってもらった方が秀吉さん、喜ぶかも…じゃあ、私、お見舞いの品を用意しますね!」
(う〜ん、何がいいかなぁ…熱があるなら果物とか、食べやすいものがいいよね。今の時期だと蜜柑とか…城下でも売ってるよね)
「朱里、熱冷ましの薬、用意するから…千鶴に一緒に持って行かせて」
「ありがとう、家康!」
「秀吉様のことは心配ですが、大勢で見舞いに押しかけるのもよくないですよね…やはり、千鶴様にお任せするのがいいのでしょうね…」
少し寂しそうに言う三成くん。
いつも甲斐甲斐しく皆の世話を焼いている秀吉さんが今この場にいないだけで、何となく落ち着かない気分になる。
秀吉さんが体調を崩すなんて滅多にないことだ。
周りに気を遣っていつも人の心配ばかりしているような人だから、大人しく休んでって言っても聞いてくれないかもしれない。
真面目な秀吉さんは、信長様のご政務が溜まっているのを気に病んでいたのかもしれない。そうだとしたら、秀吉さんの体調不良は私にも責任がある。
昨日も結局、私が雪合戦をしたいと言い出したせいで、信長様のご政務の時間を奪ってしまったのだから…
(ごめんね、秀吉さん…信長様のために無理させちゃったかな…)