第95章 雪の日に
おまけ
⁂『魔王のお見舞い』⁂
翌朝、目が覚めて外を見るために廻縁に出た私は、相変わらずの朝の冷え込みにぶるりと身を震わせていた。
吹き込む冷たい風に、夜着の上に適当に引っ掛けてきた羽織の襟元をきゅっと合わせて堪える。
(うぅ…寒っ…今朝も冷えるなぁ)
冷え込みは厳しく欄干には白く霜が降りていたが、眼下に見える城下の雪はもう、あらかた溶けてしまっているようだった。
「あー、やっぱりもう溶けちゃったかぁ…残念」
「昨日、散々遊び尽くしただろうに…まだ足りんのか?」
くくくっ、っと呆れたように笑いを溢しながら、背後からふわりと私を抱き締める。
「信長様っ…おはようございます」
「おはよう。今朝は随分と早起きだな。昨日の様子だと、今朝は起き上がれぬだろうと思っていたのだが…足りなかったか?」
「やんっ…もぅ…あ、ダメですよ…」
悪戯な笑みを浮かべながら身体を擦り寄せてくる信長様を制し、腕の中で身動ぐ。
「こら、逃げるでない。寒いだろうが」
「もぅ…勝手なんだから…」
「いいだろう?俺を温められるのは貴様だけの特権だ」
傲慢な物言いながらも、背中からぎゅっと大事そうに抱き締められる。
(はぁ…朝からこんなにも触れてもらえて…幸せ)
昨夜、湯殿での情事の後も褥でも何度も愛されて身も心も満たされたというのに、信長様は今朝も飽きることなく私に触れてくれる。
愛されていると実感できる今この時が、この上なく幸せだった。
「今年もあと僅かですね。城下でももう年越しの市が開かれているのでしょうか?」
「ああ、人の往来も増えているだろう。商人達に雪の影響がなければよいのだがな」
「そうですね…あぁ、私ったら、雪を楽しむことばかり考えてました。子供みたいで、ほんと恥ずかしい」
信長様の視野の広さに改めて感じ入るとともに、自分の子供っぽさを自覚してしまい急に恥ずかしくなってしまった。
「ふっ…貴様はそれでよいのだ。俺は、楽しげに笑っている貴様をこそ見ていたい。政の細かいことなどは気にかけずともよい。それは俺の為すべきことだ」
「信長様…」
「政務が溜まっておるゆえ、今朝はあまり構ってやれんのが口惜しいが…今少し、この腕の中におれ」
「っ…はい…」