第95章 雪の日に
「ここだ、ここ!何でここだけ雪が凍ってんだよ?滑るじゃねぇか!お前、何かしただろっ!」
足元の雪を指差しながら、不満げな様子で捲し立てる政宗に対して、光秀は相変わらず飄々とした態度で素知らぬ顔をするばかりだった。
「おやおや、それは運が悪かったな。知らぬ間に踏み固められていたのだろうか…いやはや危ない危ない」
「お前なぁ…」
そうは言いつつも、間一髪で雪玉から逃れた政宗は、素早く体勢を立て直して、盾の後ろに身を隠していた。
「仕留め損ねたな、光秀」
「面目次第もございません。この上は、こちらも正面突破を…」
言うや否や、今度は光秀が一気に前方へと距離を詰める。
素早い動きで撹乱し、隠れるのが一瞬遅れた三成に雪玉を命中させる。
「あぁ!やられました…政宗様、申し訳ございません」
「日頃、陰でコソコソ暗躍してばっかりの光秀が正面突破とはな…粋なことしてくれるぜ」
ついに一人になってしまった政宗だったが、心底愉しそうにニヤリと口元を緩める。
追い詰められるほどに血が滾るとは、さすがに百戦錬磨の武将は心構えが違うようだ。
「これで、敵は政宗だけか。光秀、ここで一気にカタをつけるぞ。結華を奪還する」
「はっ!」
(うぅー、何かすごく盛り上がってるっ…私だって…)
武将達の異常な盛り上がりとは正反対に、後方でじっとしていろと信長様に言われていた私は、一人疎外感を感じてしまい、鬱々としていた。
そもそも雪合戦をやりたいと言ったのは私なのに、いつの間にか私以上に武将達が盛り上がっているのだ。
(信長様が、私が怪我をしないように気遣って下さっているのは分かるけど…)
それでも、どうにも我慢できなくなってきて、ついには盾に身を潜めながらこっそり前方へ行くことにした。
せっかくの雪合戦、やっぱり雪玉を投げないとつまらない。
後方でじっとして守られているだけなんて、やはり私の性には合っていないのだった。
見つからないようにコソコソと移動して前まで行ってみると、
(あっ、政宗…)
信長様と光秀さんが、雪玉を投げながらぐいぐいと距離を詰めていく中で、結華を背に守りながら一人、防戦する政宗の姿が見えた。