第95章 雪の日に
ブツブツと文句を言いながら秀吉が退場する中、信長率いる東軍は大いに活気づく。
朱里がせっせと作った雪玉を、信長が怒涛の勢いで相手の陣へ投げ込んでいく。
それは非常に正確で、相手が政宗や三成でなければ、容易く当たっていただろうとは想像に難くなかった。
「チッ…二人とも、ちょこまかと動きおって…朱里、もっと寄越せ」
「は、はいっ…」
前方を凝視したままで後ろ手に手を伸ばす信長に、きゅっと固められた雪玉を渡すと、休む間もなく二人を狙って際どいところへ投げ込む。
「うおっ!危ねぇ…さすが信長様だ、際どいとこ狙ってくるな。これじゃあ全然近づけねぇな」
「政宗様、私が引きつけますから、その隙に前へ」
「おぅ!」
囮を買って出た三成が盾から出て身を晒すと、ここぞとばかりに雪玉の攻撃が集中する。
が、三成も、やはり戦となると人が変わったようになるらしく、城でのおっとりとした様子が嘘のように機敏に動いて攻撃をかわしている。
「くっ…三成のくせに生意気」
雪玉をヒョイヒョイと避ける三成に苛立ちを隠せない家康に、黒い影が忍び寄る。
「家康〜、隙ありっ!」
ーボフンッ!
三成を狙って夢中になっていた家康の側面に素早く回り込んだ政宗の一撃が、家康の頭に直撃した。
「っ…………」
「家康、抜かったな。貴様、三成に気を取られすぎだ」
「ふふ…これも策でございますから、信長様。ご勘弁を…」
ニッコリと天使の微笑みを見せる三成をジロリと睨みながら、家康は雪に塗れた髪を忌々しげに振る。
「よし、このまま一気に攻めるぞ、三成っ!」
「はい、政宗様」
勢いに乗った二人が、素早く移動して一気に距離を詰める。
「戦は勢いが大事だからな」
「くくっ…政宗らしい。だが…『急いては事を仕損じる』とも言うぞ?」
「なっ…っ、おわっ…わっ…」
東軍の陣地めがけて駆けていた政宗が突如、雪に足を取られたように身体の均衡を崩す。
鍛えられた武将ゆえ、無様に転ぶようなことはなかったが、足元に気を取られているところに雪玉が襲いかかる。
「うわっ、ちょっと待てって…おい、光秀っ、卑怯だぞ」
「……何のことだか分かりかねる」
手の内で雪玉を弄びながら、光秀は飄々とした態度を崩さず、獲物を追い詰めたような目で政宗を見る。