第95章 雪の日に
(信長様と光秀さんが政宗を追い詰めてる…私にも何か出来ること…)
そう思い、思いきって雪玉を投げてみた……が、力の弱い私が投げた雪玉は当然当たる筈もなく、政宗の目の前にヒョロヒョロと落下しただけだった。
(ええっ!?や、嘘っ…やだ、恥ずかし過ぎるっ…)
「おっ?おぉ、朱里!?いきなり何だ、お前……っていうか、こりゃあ…」
(これは…いきなり一発逆転の好機か?朱里を奪えば、こっちの勝ち…なら、やらない手はねぇな)
いかに政宗といえども、信長と光秀の攻撃を避け続け、隙を突いて二人を討ち取る、というのは、かなりの至難の業だった。
しかし、大将の持つ旗を奪えば、手っ取り早く勝利を得られるのならば、人数で劣る今、それは有効な手だった。
さすがに朱里に雪玉を思いきりぶつけるのは気が引けるので、緩めのやつをいくつも投げて、避ける余裕を失わせつつ、その混乱に乗じて旗を奪うことにする。
「わわっ…ちょっ…待って…ひゃあっ…」
「朱里っ……」
突然、自分に向かって降ってくる雪玉に慌ててしまった私は、体勢を崩して転びそうになるが、間一髪のところで逞しい腕が私の身体を支えてくれた。
「っ…あ…信長様っ…」
背後から抱き止めるように支えてくれたのは、信長様だった。
「貴様、何をしておる。大人しく後方にいるように命じておいただろう?」
「やっ、だって、私だって参加したいんですよぅ…守られてばかりなんてイヤ」
不満げに口を尖らせ、ぷぅっと頬を膨らませる、幼い子供のような仕草をする朱里が可愛すぎて、信長は怒るに怒れない。
「まったく、貴様という奴は…」
呆れたように言いながらも、信長の唇は愉快そうに弧を描く。
(これだから朱里は面白い。俺の思いどおりには動かん女だ…ま、そこがよいのだがな…)
「貴様が奪われては元も子もない。俺が盾になってやろう。存分にやれ」
「ええっ…」
(信長様が私の盾に…!?なんて贅沢な…)
男らしく私を守るように立ち塞がった信長様の広い背中にキュンと胸が高鳴る。
(『守られてばかりはイヤ』なんて言ったけど…こんな風にされたら、やっぱりちょっと嬉しい…なんて、私…なんて我が儘なんだろう)