第95章 雪の日に
「信長様…?」
「父上…?」
内心で笑いを堪える信長を、二人は不思議そうに見ている。
「くくっ…二人とも、随分と張り切って作ったものだな。だが…貴様ら、その大きな雪玉を一体どうするつもりなのだ?」
「えっ…どうするって、雪だるまにするんですよ。ほら、これ、二つ重ねて…って、重ね…あれ?重ね…られる??」
自慢げだった朱里の顔色が、途端に不安に揺れたように曇る。
ようやく気付いたようだ。
張り切りすぎて、あまりに大きく丸め過ぎた雪玉は、朱里の細腕では到底持ち上げられぬ大きさに出来上がっていた。
二つの雪玉をチラチラと見比べては顔を曇らせる朱里の様子に、信長はもう、我慢の限界とばかりに盛大に笑い声を上げた。
「くくっ…はっ、ははっ…朱里っ…貴様は本当に…面白いな」
「やっ、もうっ…笑い事じゃないですよ!うぅ…せっかく頑張って作ったのに…」
「母上っ…」
ガックリと項垂れて落ち込む朱里と、父と母のやりとりを聞いて泣きそうな顔をしている結華を、二人を溺愛する信長が放っておけるわけもなかった。
ふふっ…と緩む口元を抑えられぬまま、躊躇うことなく庭へと下りる。
ぎゅっぎゅっと音を鳴らして雪を踏みながら近付くと、朱里は驚いたように目を見張る。
「信長様…?」
「貴様の願いは、何であろうと俺が叶えてやる」
ニッと口角を上げて不敵に笑うと、大きな雪玉を物ともせずに持ち上げて、壊さぬようにそおっと二つ重ねた。
「うわぁ……」
「父上っ…すごい…」
結華の背丈ほどもある大きな雪だるまに、二人とも感嘆の声を上げる。
「ありがとうございます、信長様」
嬉しそうに顔を綻ばせる朱里に対して、得意げに口の端を上げた信長だったが、ふと思い立ったように朱里の頬に手を伸ばす。
手の甲でそっと触れると、そこは赤みを帯びているにも関わらず、ひどく冷たかった。
「……朱里、貴様ら、いつからここにおる?ひどく冷えておるではないか」
すりすりと頬を擦り、己の熱を与えんとするかのように両の手で顔を包み込む。
「んっ…あっ…大丈夫、です…」
「大丈夫なわけなかろう、こんなに身体を冷やして…風邪でも引いたらどうする?雪だるまとやらは、もう終いにせよ」
「やっ、そんな…あと、飾りを付けるだけなんです」
冷えた身体を今すぐに暖めようとするかのように、抱き寄せられる。