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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第95章 雪の日に


(雪の日はやはりいつもより冷えるな…)

書簡を書き終えて筆を置いた信長は、冷たく悴んだ両手をさりげなく擦り合わせる。

「御館様、お寒いですか?ささ、火鉢をどうぞ…」

隣で報告書の整理をしていた秀吉は、信長の様子に目敏く気付いて信長の手元へと火鉢をずずっと近づける。

「厚めの羽織をもう一枚お持ち致しましょうか?それとも、温かい茶でもお淹れして…」

言いながら、信長の返答を待つ間も惜しい様子で腰を浮かせる秀吉だった。

「待て、秀吉。どちらも要らん」
(まだ何も言っておらんというのに…此奴の世話焼きは筋金入りだな)

「そうですか…?しかし、身体が冷えますと、お風邪を召しますゆえ…この秀吉、御館様のお身体を健やかに保つためならば何なりと致しますぞ!」

「……………はぁ」

火鉢で指先を温めつつ、信長はわざとらしく大きな溜め息を吐く。

「貴様、俺を何だと思っておる?貴様に気遣われるほど、俺はひ弱な男ではないわ。風邪など、引いた試しがないだろうが…」

「そ、それはそうですが……」

深紅の瞳にギロリと鋭く睨まれて、秀吉は慌てて深く頭を下げた。
(たとえ高熱が出てても、そんな素振りを一切見せないのが御館様だからな…だから余計に心配なんだよ…)

無理を無理とも思わないでやってしまう人…それが信長だ、と秀吉は常々思っている。
だから、お傍でお仕えする俺がしっかり見ていて、御館様がご無理をなさらないように気を回さねばならないのだ。それが御館様の右腕たる俺に課せられた使命だ。

「御館様っ、やはりもう少し部屋を暖めましょう!火鉢をもう一つお持ちして…って、お、御館様っ!?」

秀吉が意を決して顔を上げた先で、信長はもう席を立っていた。

「ど、どうなさったのですか??」

「……しばし休憩だ。暖を取ってくる」

それだけ言うと、羽織を翻し、さっさと部屋を出て行こうとする。

「休憩?暖を取る?っ…て、一体どちらへ??」

「俺が戻るまでに、そこの報告書を整理しておけ。この二、三日で全て終えねば年が越せん」

「えっ、ええっ…は、はぁ…」

『それなら、なるべく早めに戻ってきて下さいよ』という不敬な小言が、危うく喉から出かかった秀吉は、モゴモゴと口籠もってしまったまま、敬愛する主君の後ろ姿を見送ることになったのだった。


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