第95章 雪の日に
「母上〜、見て見て!足が埋もれちゃうぐらい積もってるよ〜」
辺り一面、銀世界となった庭に降り立った結華は、はしゃいだ声を上げて足元の雪を踏み締めている。
「結華、滑りやすいから気を付けてね」
「は〜いっ!」
朝起きて庭に雪が積もっているのを見た結華は、久しぶりの雪に興奮して朝餉の間も落ち着かない様子だった。
『早く早く!溶けちゃうよ』
朝餉を早々に食べ終えた結華に、急かすように手を引かれて庭に出た私は、真っ白な雪に覆われた庭の様子に感嘆の声を上げた。
ヒラヒラと粉雪が舞う中で、本丸御殿の庭は白く閉ざされてしまったかのように雪に覆い尽くされている。
低木の上にはこんもりと雪が積もっており、庭の端に植えられた南天の赤い実が真っ白い雪の下にチラリと見えていた。
「わぁ…随分積もったねぇ」
縁台に腰を下ろして結華の方を見ると、元気よく庭を走り回っては雪を集めて丸めている。
足元が濡れるのもお構いなしで着物の裾をからげて動き回っている様子は、無邪気で微笑ましい。
(結華、楽しそう。私も、庭に下りてみようかな…)
久しぶりの雪景色に心が浮き立っていたのは私も同じだった。
子供みたいに雪遊びなんて恥ずかしいと、躊躇う気持ちもなくはなかったが、そこはやはり好奇心の方が優ってしまうのだった。
そっと草履に足を通して、柔らかな雪の上に足を踏み入れた。
キュッと雪を踏み締める音とともに、ひんやりとした冷たい感触が足先に触れる。
すぐに、足首までザクッと雪に埋もれてしまい足袋が濡れる感触を感じたが、逆にそのことが何だかひどく愉しく思えた。
雪の冷たさなど、全く気にならなかった。
「母上っ!」
雪玉を手にした結華が嬉しそうに傍に駆け寄って来る。
はぁ…っと吐く息が白く霞んでいる。寒さのせいか、頬も赤らんでいるようだった。
「結華、寒くない?」
「大丈夫っ!全然寒くないよ!ねぇ、母上、一緒に雪だるま作ろうよ!」
「雪だるま?いいね、作ろう作ろう!」
庭にはしっかりと雪が積もっているし、今もなお、雪は止む気配なく降り続いている。この分だと、すぐに溶けてしまうことはないだろう。
せっかく作るんだから大きいものを作ろうということになり、二人して小さな雪玉を一つずつ作り、ゴロゴロ転がし始めた。