第95章 雪の日に
「空気が澄んで…綺麗ですね」
すぅっと鼻から息を吸い込むと、ひんやりした空気が肺に伝わり、ふるりと身体が震える。
「……寒いか?」
背後から、顔色を窺うように覗き込まれ、信長様の頬が私の頬にピトッとくっつく。
「ひゃあっ……」
「冷たいな」
スリッと頬が擦り合わされて、その冷たさと擽ったさに身悶える。
「やっ、信長様だって…冷えちゃってますよ?」
意外なほど身体が冷えている信長様のことが、何だか心配になってしまう。一体、どれほど長い時間、この場にいらっしゃったのだろう……
「信長様、そろそろ中へ入られた方が…お風邪を召されるといけませんから」
「ふっ…貴様に心配されるとはな…中へ入ったら、当然、貴様が温め直してくれるのだろうな?」
信長様の口元に、ニヤリと不敵な笑みが浮かぶ。
「ええっ…う〜ん…あ、はい…」
「何だ、その寝惚けた返事は…」
呆れたような声音で呟きながら、腰に回された腕にぎゅっと力が込められる。信長様の身体が密着して、項に吐息がかかる。熱い吐息を直接感じて、ゾクリと背に甘い疼きが走ったのを自覚する。
「っ、あっ…はっ…」
思わず、掠れた声で喘いでしまった。
(んっ…やだ、変な声出ちゃった…)
「の、信長様っ…」
「んー?」
夜着の上からゆっくりと身体の線をなぞるように信長様の手のひらが這う。腰から徐々に上へと、焦らすように触れてくる。
袷の間から滑り込んで胸元に触れた手が想像以上に冷たくて、思わずひゅっと息を呑んでしまった。
「……すまん、冷たかったか?」
肩を震わせた私の反応に、叱られた子供のように頼りなげな声になる信長様が可愛らしくて、キュンっと胸が甘く疼く。
胸元に触れたままだった信長様の冷えた手を、両手でそっと包み込んだ。
温めてあげたい。その手も、身体も、全部…私が温めてあげたい。
「んっ…もぅ、こんなに冷たい手をして…ダメですよ。部屋へ戻りましょう?私が温めて差し上げますから…」
「っ、朱里っ…」
雪はなお降り続いている。
東の空が僅かに蒼白い色に染まり始めていて、空から舞い落ちる雪はキラキラと光を弾いている。
欄干に降り積もっていた雪が風に煽られて舞い上がり、ヒラヒラと風花の如く流れていった。
夜明けまでの僅かな時間、寝所に戻った私達は、互いに熱を交わし合い、冷えた身体を温めた。