第94章 聖なる夜の願い事
笑いの絶えない賑やかな宴は、皆が名残を惜しむ中でお開きになり、私は信長様と天主へ戻っていた。
「はぁ…本当に今日は一日楽しかったです!」
「ん、酒も料理も美味かったな。貴様と酒が飲めんのは残念だったが」
今宵は異国の祝い事ということもあり、信長様は貴重な珍陀酒を皆に振る舞われたのだ。
葡萄という異国の果実から作られた珍陀酒は、鮮やかな紅色が特徴的な甘みのあるお酒で、私も初めて口にしてからその深い味わいに虜になった。
家臣達は初めて目にする異国の酒の、その赤い血のような色合いに恐る恐るといった様子で盃を手にしていたが、ひと口飲んでみれば皆、その味に感嘆の声を上げていたものだ。
「吉法師のために、あと一年ほどはお酒を我慢しないといけませんから…信長様とお酒を飲める時間は、私にとっても楽しみな時間でしたから、残念ですけど…」
赤子に乳を与えている間は、酒は断たねばならない。
私は格別お酒が好きというわけではなかったが、一日の終わりに信長様と語り合いながら盃を酌み交わす時間は、何物にも代え難い楽しい時間だったのだ。
(吉法師を健やかに育てるためだもの…我慢しないとね)
「……朱里」
「っ…あっ…信長さま…?」
背中からぎゅっと抱き締められて、耳元で甘く囁くように名を呼ばれる。
湯上がりの信長様の身体は温かく、熱い吐息にはふわりとお酒の匂いが混じっていた。
細く長い指先で唇をスリスリと撫でられる。
優しい触れ方は逆に、隠れた熱情を呼び起こし、心の臓が激しく脈打つ。
「んっ…はっ…あっ…」
(唇に触れられてるだけなのに…胸がドキドキして…苦しいっ)
息苦しさを感じて、はぁはぁと忙しなく息を継ぐ私を嘲笑うかのように、信長様は指先を口内へと埋める。
ーちゅぷっ くちゅくちゅっ
「あっ、やっ…ンンッ…」
挿し入れた指で口内を嬲られ、舌先をツンツンと擽られると、気持ちが良くて身体から力が抜けてしまう。
息が上がり、立っていられなくなって信長様の胸にくったりと身体を預ける。
「んっ…信長さま…苦しっ…はぁ…」
「ふっ…愛らしい唇だな。さて……この口に、何を言わせてやろうか…」