第94章 聖なる夜の願い事
(そんな風に思ってもらえていたなんて…私なんて信長様の正室としてまだまだなのに)
「ありがとうございます、信長様。そんな風に言ってもらえて、すごく嬉しいです。私、もっと頑張らなくちゃいけませんね。
あっ、そういえば、私へのお願い事は決めて下さいましたか?」
「ん?あぁ…そうだな…改めて言われると、これといって欲しいものなどないものだな。貴様の全ては既に俺のものだしな」
「そ、それはそうですけど…」
(うっ…改めて言われると恥ずかしいな)
「何でもいいんですよ?あっ、この後、お身体をお揉みしましょうか?それとも…」
「待て、ここでそれ以上言うな。彼奴らに聞かれるではないか」
信長様は、近くで賑やかに談笑する秀吉さん達の方へチラリと視線を投げながら言う。
「そんな艶っぽい誘いは閨でしろ」
「え?誘うって…やだ、そんなつもりじゃないですよっ!もぅ……本当に、何もないんですか?」
些細なことでもいい。
何か、信長様のためにしてあげたい。
この世の何もかもを容易く手に入れられる貴方に、私がしてあげられること…それは一体何だろう。
「そうだな…ならば、俺は貴様の『言葉』を貰おうか」
「言葉…ですか?」
(それって、私に言って欲しい言葉があるってこと?)
予想外の望みに戸惑う私に、信長様は熱っぽく語りかける。
「そうだ。貴様のその身も心も既に俺のものだが…この愛らしい唇から紡がれる言葉が欲しい」
妖艶な笑みを口元に浮かべながら、細く長い指先が私の唇の上をつーっとなぞっていく。
「っ…あ…んっ…」
微かに触れるぐらいの柔らかな愛撫に、胸の鼓動が煩いぐらいに騒ぎ始め、甘やかな吐息が漏れる。
「っ…どんな…言葉をっ…お望み、ですか?」
信長様は私にどんな言葉を言わせたいのだろう。
「ふっ…今ここでは言えん。宴が終わってから…二人きりでな」
「っ…あっ……」
甘く擽るように撫で上げて、スッと離れていった信長様の指先にどうしようもなく恋しさが募る。
(ずるいっ…そんな触れ方されたら、宴が終わるまでなんて…待てなくなるっ)
賑やかな宴の喧騒をどこか遠くに聞きながら、触れられた唇からじわじわと熱情が広がっていくのを感じた。