第94章 聖なる夜の願い事
日頃の労いの意を込めて、家臣や女中達も交えて盛大に行われた降誕祭の宴は、夜が更けるまで賑やかに続いた。
家臣達には降誕祭の意味など、実のところ詳しくは分からなかったが、美味しい料理を味わい、大切な人達と語り合って過ごす夜はこの上なく楽しくて時が経つのを忘れてしまうほどだった。
宴もたけなわになってくると段々と家臣達の緊張も緩むのか、広間の彼方此方で酔いが回った者達が熱く語り合っていた。
「御館様はやはり素晴らしいっ!このような楽しい宴は初めてじゃ」
「今年もあと僅かじゃのう…来年もまた御館様にお仕えできることは、この身の誉れじゃ」
「今年はお世継ぎのお顔も見られて、ほんに良い年でしたなぁ」
口々に上がる愉しげな会話は、聞いているこちらも嬉しくなる。
(信長様は普段、優しい言葉をかけられるわけではないけれど、家臣の皆にこんなにも慕われていらっしゃる。それがとても嬉しい)
「朱里、疲れたか?」
皆の愉しげな会話に耳を傾けているうちに口数が少なくなっていた私の顔を、信長様は心配そうに覗き込む。
「いいえ、全然!こんなに盛大な宴を開いて下さってありがとうございます。皆、本当に愉しそうで…」
「今年もあと僅かだからな…皆の慰労も兼ねて、ちょうど良い機会だった。降誕祭が家族や大切な者と過ごす日だというのなら、貴様や家臣どもと時を共有することこそ、俺にとっての道理だと思ったまでだ」
(それって…私や家臣の皆のことが大切ってことだよね?)
「っ…ふふ…」
至極真面目な顔で淡々と述べる信長が可愛くて、朱里は思わず小さな笑みが溢れるのを抑えられなかった。
「……何が可笑しい?」
「ふふ…信長様はお優しいですね」
「……?訳が分からん。優しいのは貴様の方だろう?」
「え?」
「奥の女中達に交代で休みを取らせている、と秀吉から聞いたぞ」
「あっ、それは、その、これから年末年始は特に忙しくて女中さん達にはいつも大変な思いをさせているから、一日でもゆっくり休んでもらいたくて…その分は私も働けばいいので。あの、信長様の許可も得ずに勝手なことしてごめんなさい」
「構わん。秀吉から報告は受けている。奥の差配は貴様に任せているのだから、思うままにやればよい。貴様が良いと思ったことはどんどんやってみろ。俺は貴様のやる事に文句は言わん」
「信長様っ…」