第94章 聖なる夜の願い事
せっかくの祝い事の場で、子供が嫌な思いをしないで済んだことに、ホッと胸を撫で下ろす。
咄嗟に機転を利かせて助けてくれた信長様には感謝しかない。
「信長様、ありがとうございました。助かりました」
「別に…大したことはしておらん」
「でも…貴重な金平糖を…よろしかったのですか?」
「構わん。帰りにまた買って帰る。秀吉には内緒だぞ?彼奴、俺が城下に出ると必ず金平糖を買ってくると思っておるのだ。全く、油断ならん奴だ」
「ふふ…信長様ったら…」
「それに、貴様が困っているのを俺が放っておけるわけがなかろう?金平糖一つで貴様が笑顔になるのなら、安いものだ」
ニッと悪戯っぽく口角を上げて笑む信長を見て、朱里はふわりと心の内が温かくなっていくのを感じる。
「私、助けてもらってばっかりですね…そうだ、信長様は私にして欲しいこととか、何かありませんか?子供達に贈り物をしたみたいに、私から貴方に何かしたいのですけど…」
「贈り物?俺にか?」
意外だったのか、驚いたように目を見張る。
「あっ、物の贈り物は今からだと用意できそうもないので、して欲しいことがあれば…と」
「貴様にして欲しいこと…か。何でもいいのか?」
「は、はいっ…何でも仰って下さい!」
「ふ〜ん…何でも、か…」
「えっ?あぁ、はい、何でも、どうぞ…?」
信長様の意味深な物言いに何となくモヤッとした感じになるが、何かしてあげたいという気持ちに変わりはなくて、期待を込めた目で見つめる。
信長様は口元に手を当てて何事か思案するような顔をされていたが、
「では、夜までに考えておく。そろそろ戻るか?宴の料理の準備を手伝うのだろう?」
「はいっ!信長様のお好きなものも沢山ご用意しますから、楽しみにしてて下さいね!」
「くくっ…随分と張り切ってるな」
「皆が集まる宴はいつでも楽しいものですけど、今日の宴は何となく特別な気がして…ふふ…異国のお祝い事なのに変ですね」
「楽しければそれで良いのではないか?異国の風習であろうとも、皆の益になるのなら、細かいことは気にせず楽しめば良い」
「信長様……」
信長様はいつだって常識に囚われない方だ。
自分で見て、触れて、感じたもの…それが信長様の全てだ。
(そんな貴方に、私はどうしようもなく惹かれる…)