第94章 聖なる夜の願い事
「はいっ、どうぞ!」
フロイス神父とともに礼拝堂の入り口に立った私は、列をなした子供達に順番に菓子を渡していく。
一つずつ綺麗に包まれた菓子を貰う時の子供達の顔は、キラキラと輝いていて見ているこちらが眩しいほどだった。
「ありがとう、奥方様っ!」
「ふふ…どういたしまして」
弾けるような笑顔で、大事そうに菓子の包みを受け取っていく子供達を見ていると、じんわりと幸せな心地が広がっていく。
『子供達に菓子を贈る』
信長様の計らいは、子供達だけでなく、大人の私達にも笑顔と幸福をもたらしてくれていた。
この場にいる皆が笑顔になっていた。
その信長様はといえば、一人、礼拝堂の椅子にゆったりと腰掛けて真っ直ぐに前を向いておられる。
『えっ、信長様は一緒になさらないのですか?』
当然信長様も一緒に菓子を配ってくれるものと思っていた私は、予想外な答えに驚いていた。
『俺はいい。子らも、俺がおっては恐ろしがって近づけぬだろう?朱里、貴様が配ってやれ』
『信長様……』
大人達はそんなことはないが、子供達は信長様には会ったこともない子も多い。
礼拝中も、怖々と信長様のことを見ていた子が多かったように思う。
(信長様はお優しい方なのに…子供達の目には冷酷非情な恐ろしい人だと写っているのだろうか。
信長様の本当のお優しさを、子供達にも分かってもらいたいのにな)
直接触れ合って言葉を交わせば少しは分かるのではないか…そう思いながらも、信長様の方も一線を引くように子供達から距離を取られているので、どうすることもできない。
内心に歯痒い想いを抱えながら、菓子配りを続けた。
(ん、次の子で最後かな…)
長い列も終わりにさしかかり、最後の子が目の前に歩いて来るのを確認しつつ菓子の包みを入れていた籠に手を伸ばす。
「んっ?えっ、あ、あれ!?」
(嘘っ…もう、ない!?この子で最後なのに?足りないなんて、そんな…)
子供の人数は予め分かっていたわけではない。
おおよその数で用意した菓子だが、まさか最後の一人で足りなくなるとは…