第94章 聖なる夜の願い事
今日は師走の二十五日
今年最後の日まであと六日という、一年のうちでも特に忙しい時期にも関わらず、信長様は、降誕祭という異国の祝い事に参加することを許して下さった。
参加するといっても、南蛮寺の礼拝に出席すること、結華と吉法師に贈り物をすること、夜は皆で宴をすること、とそれぐらいのことで、特別変わったことをするわけではないのだが、異国の祝い事というだけで何だか心が浮き立つようだった。
「信長様、奥方様!さぁさぁ、中へどうぞ。まもなく礼拝が始まりますよ」
出迎えてくれたフロイス神父の先導で南蛮寺の中に入ると、礼拝堂は沢山の人で溢れていた。
今日はいつもより子供達の姿も多く見られる。
「神父様、今日は子供達もたくさん来ているのですね」
「はいっ!今日は小さな子供達でも聞きやすいお話をしようと思っています。礼拝の後は、信長様が用意して下さった菓子を配るとお触れを出しましたので、子供達がたくさん集まってくれたようですね!」
「えっ、そうなのですか?」
(信長様が城下の子供達に菓子を…知らなかった…)
予想外のことに驚いて隣に立つ信長様を見るが、当人はなんでもないような顔をなさっている。
「子供らに贈り物をする日だと言ったのは貴様だぞ、朱里」
「そ、そうですけど…城下の子供達のためにそんな準備をなさっていたなんて聞いてませんでしたよ」
「改めて言うほどのこともない。菓子といってもささやかな物だ」
「信長様…」
(それでも、ささやかな物であっても子供達は喜ぶに違いない。甘味はそうそう口にできるものではないから、小さな子供達にとっては貴重な愉しみになるだろう)
信長様のさりげない気遣いが嬉しかった。
言い方はぶっきらぼうで、決して優しいわけではない。
子供に媚びるような真似はなさらないし、子供だからといって過剰に甘やかしたりもなさらない。
けれど、小さな子へ差し伸べられる信長様の手はいつも慈愛に満ちていて温かい。