第94章 聖なる夜の願い事
師走の朝は、日が昇るのが遅く、夜が明けても外は長らく薄暗い。
肩口にひんやりとした寒気を感じ、ブルッと身を震わせた私は、掛布を引き上げて頭まですっぽり覆ってから、身体を小さく丸めた。
(ううっ…寒っ…今朝は特に冷えるなぁ。もう起きる時間?まだ出たくないっ…)
冷え切った寝所の空気と薄暗さに起きる勇気を奪われて、ぎゅっと目を閉じる。
「……朱里」
背中からふわりと包み込むようにして、逞しい腕に囚われる。
ぴったりと密着した身体からは、ぽかぽかと温かな熱を感じる。
「っ…あっ…信長さま…?」
「おはよう、朱里」
チュッと、項に熱い唇が押しつけられて、ゾクゾクとした甘い震えが背を駆け上がる。
「んっ…あ、はっ…おはよう…ごさいま、す…」
「ふっ…貴様、まだ寝るつもりだったか?」
首筋に、耳裏に、頬に、ちゅっちゅっと啄むように口付けられる。
「ふ…あっ、んっ…いま何刻ですか?んっ…もう、起きる時間?」
「さぁな…外はまだ暗いようだが。二度寝とは…貴様にしては珍しいことをするなと思ってな」
ーちゅううぅ…ちゅっ…
「ひっ、うっ…やっ、耳っ、吸っちゃっ…やっ…」
「んー?」
「だ、だってぇ…まだ暗いし、寒いんですもの…まだ…」
「くくっ…まだ、布団から出たくないと?」
(子供みたいなことを言いおって…愛いやつめ)
愛らしいことを言う朱里に、ぎゅっと胸が締めつけられて思わず抱き締める腕に力を込める。
「やっ…信長様っ…」
「寒いのだろう?暖めてやろう…このまま寝ていいぞ?」
「っ…もぅ…眠れません」
腕の中で身を捩り身体の向きを変えると、胸元に顔を埋めてくる。
すりすりと頬を擦り寄せて猫のように甘えてくる姿は、少女のように愛らしい。
「っ…朱里、こちらを向け」
目覚めてよりまだ顔を見ていないことに思い至って、顔を上げるように命じる。
まだ眠いのだろう、とろんと蕩けた瞳で見上げてくる。
朱里のその頼りなげな風情にグッと欲を煽られた信長は、顎先に手を掛けて上を向かせるとぽってりとした唇を深く奪う。
「んっ…ンンッ…っはぁ…あんっ、信長さまっ…」
僅かに開いた隙間から信長が舌を挿し入れると、すぐに柔らかな舌が絡み合ってくる。
朱里の口内は熱く湿っていて、絡まる舌も熱っぽかった。